経済産業省・中小企業庁は【家飲みでプチ贅沢?】withコロナにおける食品市場の変化を探ると題して、下記内容を発表しました。
新型コロナウイルス感染症(以後、感染症という)の影響を受けた「withコロナ」の暮らしは、家具・家事用品やゲームソフト等、衣食住において様々な「巣籠もり需要」を生みだしたことを以前の記事でご紹介しましたが、特に家庭内で消費される食品は著しい需要拡大を見せています。
この記事では、そんな食品に注目し、商品を販売する企業・事業所に対する調査であり、消費を供給側から把握できる「商業動態統計調査」や、世帯に対する調査であり、消費を需要側から把握できる「家計調査(外部リンク)」等のデータを使いながら、具体的にどんな食品ビジネスが伸びているかを分析します。
なお、今回の記事に登場するグラフや図表は全て、HPなどから取得できる公的統計データを基に作成しており、どなたでもご自分で調べることが可能なものになっています。もし気になるデータ、気になる品目などがありましたら、是非、統計データへのアクセスもお待ちしております。
2020年におけるスーパーの飲食料品販売額は?
経済産業省が毎月発表している「商業動態統計調査」では、卸売業と小売業の販売額の動向を業種別・業態別で見ることができます。このうち小売業の業態別では、百貨店・スーパー、コンビニエンスストア、家電大型専門店、ドラッグストア及びホームセンターの販売額の推移を確認できます。そこで、まずはスーパー(※)のデータから、2020年の飲食料品販売額と前年同月比の増減率を見てみます。
※ここでいうスーパーとは、従業者50人以上、かつ、売場面積の50%以上についてセルフサービス方式を採用している事業所であって、売場面積が1,500平方メートル以上の事業所をいいます。ただし、商業動態統計調査の家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターの調査対象企業の傘下事業所で、調査対象となっている事業所を除きます。
2020年の1月から12月までのスーパーにおける飲食料品販売額を前年と比較してみると、感染症流行の不安が高まった2月から販売額の前年同月比増減率が急激に上昇し、1度目の緊急事態宣言が段階的に解除された5月をピークに増減率は一度もマイナスにならず推移しました。2020年年間の飲食料品販売額は11兆6,252億円(※2020年12月確報値)となり、前年比+6.7%と大幅な上昇となりました。
withコロナの暮らしで「売れたもの」の傾向
次に、世帯ごとの支出額を品目別に把握できる、総務省発表の「家計調査」を参考にしながら、具体的に2020年の年間支出額の上昇率が高かった食品の傾向を見ていきましょう。
巣籠もり生活の定着で「家飲み」にシフト
全体的に巣籠もり需要の影響が大きかった2020年の家計消費において、1世帯当たりの年間支出額(以下、支出額)の上昇率が最も高かったのはウイスキー(前年比+36.6%、以下かっこ内は前年比)でした。同じく酒類ではチューハイ・カクテル(+32.5%)、ウォッカ、ブランデーなどの他の酒(+25.2%)も急上昇。そのほか、発泡酒・ビール風アルコール飲料(+16.8%)、ワイン(+12.0%)、焼酎(+10.2%)も高い伸び率となり、巣籠もり生活の定着で「家飲み」需要が高まった傾向が表れました。ウイスキーの消費が特に増えたのは、近年のハイボール人気に加えて、コロナ禍で健康への意識が高まる中、低カロリー・低糖質という特徴も選択を後押しする要因になったのかもしれません。
外食産業の消費減が家庭用に出回った「高級食材」
たい(+33.5%)、うなぎのかば焼き(+27.1%)のような高級食材の支出額が上昇したのも2020年における家計消費の特徴です。そのほかに、ほたて貝(+19.8%)や、マダコなどを含むたこ(+18.0%)など、比較的高級な海鮮類も消費がアップ。
二人以上の世帯のうち、家計調査で収入の調査を行っている勤労者世帯において、2020年の世帯主収入はコロナ禍の影響も受け、前年比-1.5%と減少(1世帯当たり年間約7万6,000円減)しました。
しかし、国民一人当たり10万円の特別定額給付金等もあり、可処分所得(個人所得から税金や社会保険料などを差し引いた残りの手取り収入、つまり自分の意思で使える部分)は前年比4.6%と増加(1世帯当たり年間約26万円増)しました。
旅行や外食等への支出が減少する中、普段はあまり家庭用に出回らない高級食材がスーパーなどに安価で並んだ例もあり、自宅で贅沢をしたいという需要ともマッチして、消費増に繋がったと考えられます。
簡単に調理できて保存も効く「麺類」
パスタ(+26.2%)をはじめ、麺類は全体で16.3%の支出額アップになりました。特に全国的に休校となった3月と、緊急事態宣言が発令された4月の伸びが著しく、自炊をする人が増えた中で簡単に調理できて長期保存が可能な点が好まれたと考えられます。特にパスタは子どもや若い世代に人気が高い食品であり、2020年のパスタの年間国内生産量・輸入量は共に増加し、年間国内供給量は過去最多となりました。
テイクアウト需要を反映した「中食」の消費アップ
上記の品目ほどの伸びはありませんでしたが、弁当や惣菜のように調理・加工された食品を差す「中食」関連の消費上昇も注目すべき点です。食品では冷凍調理食品(+12.4%)やハンバーグ(冷凍品以外、+10.3%)が人気を集めました。一方で、軒並み大幅な減少となった外食産業において、従来からテイクアウトが一般的なハンバーガー(+11.5%)だけは、減少することなく増加しています。
一方で、消費が下がった主な品目は…
支出額の減少率が大きかった食品は、まんじゅう(-17.6%)やカステラ(-12.2%)、ゼリー(-12.7%)など贈答品として購入されることの多い菓子類。人と会う機会がコロナ禍で減少したことが要因として推測されます。
最新データでも明らかなフードデリバリーの成長
前項では、具体的な食品の「品目」に注目し、需要の変化をみてきました。一方、外出や接触を控える「withコロナ」の暮らしは、食品の種類だけでなく、その「入手方法」にも変化をもたらしました。近年、急成長をしているのがインターネットショッピングです。総務省発表の家計消費状況調査(外部リンク)によると、2020年の総世帯におけるインターネットを利用した月平均支出額は1世帯当たり前年比14.8%アップの1万4,557円でした。
世帯別でみてみると二人以上の世帯よりも単身世帯の方が、伸び率が高く、日中仕事などで買い物機会の少ない単身者がインターネットショッピングをより利用したものと推測されます。また、都市階級別で見ると緊急事態宣言の影響が大きかった大都市の方が中都市よりも伸び率が高いことが分かります。
さらに項目別に分けて食品関連を見てみると、出前(+111.5%)の支出額が前年比で倍増と特に目立ち、フードデリバリー市場の急拡大を反映した結果となりました。また、食料品(+57.7%)や飲料(+36.7%)もそれぞれ大幅増となっており、「withコロナ」の暮らしの中で、食品購入の選択肢の1つとしても「インターネット経由」というものが認知されるきっかけになったのではないでしょうか。
変化の中に新たなビジネスの芽を
このように感染症の影響による「withコロナ」の暮らしによって食品の消費行動にも如実な変化が表れる中、新たな傾向にビジネスチャンスを見つけ、既存のビジネスを転換する企業も出ています。内食拡大に伴う健康意識の高まりをニーズと捉えて大豆等を使った代替肉の開発に取り組む企業や、リアル店舗と併行して宅配型のネットスーパーに力を入れる企業、移動販売車を始めた卸売業者などがその一例です。
外食産業でもインターネットのプラットフォームを活用したデリバリー事業やECサイトによる通販事業を拡大する企業や個人店が増えているほか、デリバリーに特化した「ゴーストレストラン」を設置する企業も増えています。
今回の分析でご紹介した「商業動態統計調査」、「家計調査」、「家計消費状況調査」は全て毎月公表されており、どなたでも利用することができる公的統計データです。新しい生活様式により、人々の消費行動が大きく変わった今、予想困難な変化を読み解くためのヒントとして統計データは大いに役に立ちます。
ぜひ、これらの公的統計データを、ビジネスの芽を見つける参考としても活用していただければと思います。
withコロナの生活で変わりゆくコンビニエンスストアのあり方
新型コロナウイルス感染症(以下、感染症という)の影響を受けた「withコロナ」の暮らしは、我々の生活にさまざまな変化を起こしています。前回の記事では、スーパーの飲食料品販売額の推移を見ながら、2020年における食品市場の変化を分析しました。今回は「コンビニエンスストア(以下、コンビニという)」に着目し、引き続き経済産業省が発表している「商業動態統計調査」をはじめとする統計データを活用して、コロナ禍におけるコンビニのあり方の変化を探ります。
今回の記事に登場するグラフや図表は全て、HPから取得できる公的な統計データを基に作成しており、どなたでも調べることが可能です。気になる統計データがありましたら、ぜひアクセスしていただき、ビジネスのヒントにお役立てください。
スーパーと明暗が分かれたコンビニ
経済産業省が毎月発表している「商業動態統計調査」では、卸売業と小売業の販売額の動向を業種別・業態別で見ることができます。このうち小売業の業態別では、百貨店・スーパー、コンビニエンスストア、家電大型専門店、ドラッグストア及びホームセンターの販売額の推移を確認できます。
過去2回の中で、コロナ禍においてスーパーが好調であることお伝えしました。しかし、一方のコンビニは統計調査が始まって年計が出るようになった1998年以降、毎年増加し続けていた年間販売額が、2020年に前年比▲4.4%と初の減少に転じたのです。月ごとの数値で見てみると、感染症流行の不安が高まった3月以降からマイナスに転じ、一度目の緊急事態宣言が発令された4月に前年同月比▲10.7%を記録。1年の中で最も大きな下げ幅になりました。
2020年の年間販売額を商品分類別に確認すると、ファーストフード及び日配食品(弁当、パン、乳製品、デザート類など)は前年比▲6.4%、加工食品(生菓子以外の菓子類、飲料、酒、調味料、レトルト食品など)は同▲5.0%、非食品(雑誌、衣料品、文房具、雑貨など)は同▲0.5%、サービス売上高(コピー、宅配便、各種チケットなど)は同▲9.9%と、非食品以外は大幅な減少になりました。
特にサービス売上高は、イベント等の自粛により、チケット関係の販売数減少が影響していると思われます。
在宅勤務の普及によって通勤時や昼食時の来店客数が減ったこと、外出自粛によって観光地にある店舗の売り上げが下がったことなども販売額減につながったと考えられます。
社会情勢の変化が生んだコンビニの課題
コロナ禍でダメージを受けたコンビニですが、それ以前からも課題を抱えていました。
経済産業省は、2019年6月から有識者を招いて、コンビニを取り巻く諸課題を議論する「新たなコンビニのあり方検討会」を立ち上げ、5回開催するとともに、併行して、計2回のコンビニ本部ヒアリング、計12回のオーナーヒアリングを実施し、2020年2月に報告書を取りまとめています。また、2020年10月にはコンビニチェーン代表者を招いたフォローアップ会合を行いました。
本検討会で露わになったのは、人口減少や賃金増加といった大きな変革を必要とする課題でした。そんな状況下のコンビニに感染症拡大というさらなる逆風が巻き起こったのです。現在のコンビニは「新しいあり方」を考える分岐点が訪れているといえるのかもしれません。
コロナ禍でニーズが高まったジャンル
新しい時代のコンビニには、どのような機能や役割が求められるのでしょうか。コロナ禍でニーズが高まったサービスに注目してヒントを探してみましょう。
ここ1年で顕著だったのは、巣籠もり生活や非接触のニーズにマッチした出前サービスの急成長です。特にインターネットを利用した出前サービスは、2020年だけで前年比2倍以上の成長となりました。
一度目の緊急事態宣言下の2020年4月5月と、感染者が急増しGo To Eatキャンペーンが一時停止となった2020年末は、出前サービス各社がこぞってクーポン配布をしたり、既存店舗がデリバリーに注力したりと工夫しました。その結果、出前サービスの利用が急増。特に年末はお取り寄せ・デリバリー需要に拍車をかけました。
コンビニにおいても、オンライン注文で自宅に商品を届ける「ネットコンビニ」サービスやデリバリー業者との協業による出前サービスなど、大手コンビニチェーンが新しい取り組みを始めています。「すぐそこの便利な店」だったコンビニがさらなる進化をして、家から出ずともコンビニを利用できる時代になったともいえます。
テレワークの普及もこの1年の大きな変化です。内閣府の調査(外部リンク)によると、2020年末時点で全国平均21.5%の企業がテレワークを実施。東京23区のみに絞ると、42.8%の企業が実施しています。
出社しない人が増えているため、今までオフィスワーカーに支えられてきた都市部の店舗は、大幅な経営戦略の見直しが必要になるかもしれません。
一方で、テレワーク普及に伴って情報家電の販売が伸びており、2020年は、消費税率引上げの駆け込み需要があった2019年9月以外の月で、前年の販売額を上回っています。住宅地にある店舗では、在宅勤務者のニーズを掴んだサービスや安定した通信環境が整ったイートインスペースの拡充などが売り上げアップの鍵を握りそうです。
「すぐそこの便利な店」から次の時代へ
統計データの情報から、withコロナで変わりゆくコンビニの新しいあり方を考えてきました。
コンビニは、私たちの生活にとって欠かすことのできないライフラインといえます。さらに、キャッシュレス決済を使えば対人の接触を最低限に抑えられます。また、複数のサービスがまとまっているため、銀行や宅配、印刷などをコンビニ内で完結できるなど新しい生活様式のニーズに適した空間です。
アフターコロナにおける未来のコンビニは一体どのような姿に変わっているのでしょうか。
従業員不在の完全無人店舗になるのか。はたまた実店舗はなくなり、ドローンやロボットたちの配送拠点という位置付けになっていくかもしれません。
今回はコンビニを例に分析を行いましたが、統計データはコンビニなどの小売業に限らず、あらゆる業種の分析に役立ちます。ご自身が関わる業種を統計データから読み解いて、その業種や会社の未来を予測してみてはいかがでしょうか。
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