経済産業省・中小企業庁は、事例から学ぶ!「ブランディング」と題して、下記内容を発表しました。
「ブランド」という言葉から、何を思い浮かべますか?
高価な時計や有名ファッションをイメージする人もいるかもしれません。日本では、「ブランド=高級品」の印象が強すぎて、中小企業・小規模事業者の経営者のなかには、「自社とは縁遠いもの」と考える人もいるでしょう。
ブランドの語源は、他人の牛と区別するために自分の牛のわき腹に押した「焼印」と言われています。自社の商品やサービスを他社のものと「区別するため」ものがブランドであり、その目的はお客様に自社を「選んでもらう」ことです。
ブランドをつくることを「ブランディング」と言いますが、ブランディングは「選ばれる仕組みをつくること」と言い換えてもいいかもしれません。
今回は、ミラサポplusの「事例ナビ」から「ブランディング」に関わる事例をご紹介します。
ブランディングの目的は何か?
ブランディングというと、「ネーミングやロゴを変えること」のように誤解されがちですが、「見た目」を変えることではありません。
ブランディングの目的は、お客様に自社の商品・サービスを「選んでもらう」ことです。選ばれるためには、自社の強み・他社との違いを「ブランドコンセプト」として明確にする必要があります。
このブランドコンセプトをアピールするために、ネーミング・ロゴ・パッケージを変えることも多いのですが、ネーミングやロゴはお客様にブランドコンセプト(差別化のポイント)をアピールするためのツールにすぎません。
事業承継をきっかけに、自社・商品のブランディング
北海道の消臭液・土壌改良材のあるメーカーは、事業承継をきっかけに自社製品の顧客層の若返りを考えて、若年層向けにパッケージデザインを変更しました。しかし「見た目」を変えても思うような結果につながらなかったため、本格的なブランディングを行いました。
まず徹底的な自社分析を行い、自社の強み、経営理念や行動指針を明確にしたうえで、ブランドコンセプトを設定。コンセプトに基づき、シンボルマークやパッケージデザイン等を開発し、社内外へのコンセプトの浸透・発信に取り組みました。
この事例は自社(社名変更等)と商品(ロゴ・パッケージ開発等)の両方に関わるブランディングの事例です。
デザインの知識を持った人材が全くいなかった企業において、外部のアートディレクターとの出会いを契機にデザイン経営に取り組み、ターゲット層の若返りなどブランドコンセプトの見直しを開始。その一環として、社名変更やブランドロゴの作成を行うとともに、ブランドコンセプトを明確化し、社内外への浸透・発信に取り組んだ。見直したコンセプトを念頭に商品パッケージのリニューアルを実施。一連の取組が功を奏し、販路拡大(海外5カ国との取引)や利益率の向上につながっている。
ブランドの世界観、ブランドストーリーに共感してもらう
お客様のブランドへの信頼や愛着が高めていくためには、ブランドの世界観やストーリーを発信していくことが大切です。世界観やストーリーに共感した人がリピーターとなり、ブランドが選ばれ続けることにつながります。
福岡県宇美町の乳製品の製造事業者は、商工会の支援を受けながら、山羊の乳を使用したヤギミルクアイスのブランド化をすすめました。
ブランディングにあたって、ブランド名を「うみあいす」から「産み愛す」に変更。「産み」は「宇美」町の地名の由来であり、このようなキーワードを入れることで、地域に密着したブランドストーリーをつくることができます。
ふるさと納税の返礼品登録、地域飲食店との連携など、地域に密着したブランドとして展開し、販路開拓をすすめています。
商工会を通じた専門家の助言を受け、ヤギミルクアイス「うみあいす」を商品化。イベント会場等で販売を行い、商工会の提案を取り入れながら商品名を「産み愛す」に変更。新デザインで「福岡県六次化商品コンクール」で審査委員特別賞を受賞。 感染症流行後、イベント中止により売上げが減少したが、商工会の支援を受けながら「山羊の堆肥」の商品化、2台目の移動販売車の購入など、事業基盤の強化を実施。ECサイトへの卸売や通信販売の比率を高める取組のほか、地元飲食店等との連携も進めた。
富山県富山市のある企業は、地域産業資源の「トウキ葉」の有効成分を抽出した、オーガニック化粧品を開発しました。トウキ葉化粧品の企画・製造・販売にあたって、同社は費用の一部を「クラウドファンディング」で調達しました。化粧品のような商品は、ブランドの世界観がとても重要です。同社では、クラウドファンディング・SNSを活用することで、自然派・オーガニック関心層に、ブランドの世界観・ストーリーへの共感を広げています。
富山県の地域産業資源であるトウキ葉を活用した各種化粧品の商品化に成功した。当事業では、トウキ葉化粧品シリーズのブランディングとともに、国内及び海外への販路開拓を実施していく。
グローバル展開を視野にいれた、ブランディング
国内で知名度のあるブランドでも、海外ではブランド力が通用するとは限りません。グローバル展開にあたって、海外の顧客にあわせてブランドコンセプトの見直しが必要になることがあります。
奈良県の老舗編針メーカーは、グローバル展開を踏まえた新ブランドを立ち上げました。ブランディングにあたっては、愛着をもってブランドを育てていくために、ブランドコンセプトを社員全員で検討。また、海外の方にコンセプトが伝わるように、新ブランドのネーミングやロゴの開発を行いました。
ブランドの再構築により、売上を大きく伸ばしています。
海外展開を実施するも伸び悩んでいた自社ブランドについて、ブランディングデザイナーの支援などを受けて、時代にあったブランドへの見直しを実施し、ブランド力の向上につながった。
地域の伝統産業を、リブランディングで再生
地域の伝統産業が、消費者ニーズの変化に応えることができずに、衰退していく例は珍しくありません。このような伝統産業を再び成長の軌道に乗せていくために、地域の事業者が連携して、地域ブランドの再生を進めている事例があります。
群馬県太田市の企画販売会社は、地域のニット産業の復活をめざして、市内のニット工場と連携して、地域ブランド「OTA KNIT(太田ニット)」を立ち上げ、商品開発・ブランド浸透を進めました。このような取り組みにより、若年層への認知が進み、販路が拡大。市内の工場でOTA KNITのファクトリーブランドが立ち上がるなど、リブランディング効果が表れています。
社長は群馬県太田市にUターンし、デザイナーである妻と共にニット製品の企画・販売企業を創業。しかし、当地域のニット産業がバブル崩壊以降衰退している状況を知る。市内のニット工場と連携を図り、工場に製造を託し、当社が企画やマーケティングを担い、知名度向上に取り組んだ。これまで難しかった若年層への認知も進み、市内の工場でファクトリーブランドが立ち上がるなど、OTA KNITという地場ブランドへの関心が高まっており、今後も地元産業の飛躍に向け、取組を続けていく。
福島県南会津町の木製玩具メーカーも、伝統産業である木工産業のブランディングに取り組んでいます。
南会津町の伝統産業である木工産業は、近年需要低迷に悩んでいました。同社は、外部のデザイナー、地域の木材店・木工所と連携し、「子供達が、木の温もりを感じ、安心して遊べるおもちゃ」をコンセプトにした国産木製玩具のブランドを立ち上げました。
デザイン性と高品質を兼ね備えた同社の国産木製玩具は子育て層から評価され、国内の百貨店・ショッピングセンターなどに販路を拡大。また、欧州の見本市でも高い評価を受けるなど、海外展開の可能性も広がっています。
国内市場が縮小する木製玩具市場において、「デザイン性と高品質を兼ね備えた木製玩具」というブランディングにより、海外市場の開拓も進めている。
ブランドは、お客様との「約束」の証
私たちは、無数の商品・サービスに囲まれています。暮らしていくためには、そのなかから特定の商品やサービスを選ばなくてはなりません。選ぶための重要な判断材料になるのがブランドです。
ブランドは消費者の意思決定を円滑にします。なぜなら、ブランドは消費者に「何らかの価値を約束している」からです。そして、その約束している価値こそ、「ブランドコンセプト」の正体です。
ブランディングとは、自社の商品・サービスが「お客様に対して、どんなことを約束するかを決めること」と言い換えてもいいかもしれません。その約束の証が、ブランド名であり、ブランドのロゴなのです。
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