経済産業省・中小企業庁は、なぜCREが企業価値の向上につながるのでしょうか?とだいして、下記内容を発表しました。
回答
CRE(企業不動産)といえば、以前は遊休地での賃貸経営といったイメージが先行しており、自社とは無関係と捉える企業も少なくありませんでした。しかし今、本業で利用中の不動産もCREの一部という本来の意味での認知が広がり、企業価値を向上させる手段と結びつけて考える企業も増えてきました。この背景には、CRE戦略を検討しやすい土壌が生まれてきたことや、実際にCREの老朽化が進んでいることなどがあります。また、昨今のコロナ禍による社会の変化も、CREの注目度アップと無関係ではありません。
ネットの普及、価値観の多様化、コロナ禍などが、各社のCRE戦略に影響
改めて、CRE(企業不動産)とは「Corporate Real Estate」の略です。国が「CRE戦略を実践するためのガイドライン」を発表した2008年以降に認知されるようになりましたが、当時は不動産のプロが遊休不動産の活用法を企業に提案する際に用いられる程度で、多くの企業にとって「CRE≒賃貸アパート経営」程度の理解だったように思います。
それが近年、インターネットの普及などにより、本業で利用している本社ビルや営業所、工場などといった不動産に関しても、正しいCRE戦略に基づき活用法を見直すことで、企業価値の向上につながるといった情報が多くの企業に広がりました。これには、例えばSDGsやサステナビリティーに対する意識の高まりなどを含む価値基準の多様化により、以前に比べてCRE活用の選択肢が大幅に拡大していることも関係しています。
また、昨今のコロナ禍もその流れを後押ししました。テレワークの浸透やワークスタイルの変化を受け、本社機能の縮小や移転、サテライトオフィスの整備といった潮流が生まれているのはご存知の通りです。これらは各社がCREを見直すきっかけになりました。このほか、オンライン取引が増えたことで、データセンターや物流拠点の建設ニーズも高まっています。かつて利用価値が低いとされていた地方や郊外などの土地がこうした建設ニーズの受け皿となれば、予想外のキャッシュに代わる可能性もあります。こうした複合的な要素を背景に、今改めてCREへの注目度が高まっていると考えられます。
中小企業にとってもCREの見直しが不可欠な理由
日本の企業の99.7%は中小企業で、そのうちの7割超が社歴20年を超えるといわれています。このことから、日本にある大多数の企業が今現在本業で使っているCREも老朽化が進んでいると考えられます。建物は、一定の築年数を超えると修繕費や維持管理費が急増する傾向がありますから、そのようなコストが重なり始める前にCREを適切に見直しておくことが、将来生じるキャッシュアウトの抑制や、突然のアクシデントによる操業停止などの回避につながるでしょう。
また、CREの見直しは、M&A時に求められることの一つでもあるため、M&Aによる事業承継などを考えている場合は、より切実な検討事項になります。さらに、先進的な海外企業の多くは、コンプライアンスや株主対策の観点から調達先のCREについても法令遵守を求めていますから、海外企業との取引がある場合もCREへの意識を高く持つ必要があるでしょう。法令違反が判明した場合、取引中止はもちろん、契約内容によっては多額の損害賠償金を支払わなければならないケースもあるようです。ただ反対に、CREの適正化を進めておけば、コンプライアンス意識の高い海外企業へのアピールポイントとなり、販路拡大のチャンスにもなるわけです。
さらに労働力人口の減少が危惧されている日本の社会において、いかに優秀な人材を確保するかは全企業共通の課題といえるでしょう。当然、働く場所の快適性は人材の獲得に有利に働きますし、福利厚生施設の充実も近年再注目されているポイントの一つです。実際に、トイレ、寮・社宅、更衣室などのCREを見直すことで、新卒の応募件数の増加につながった事例は多数あります。
日本の企業は「壊れるまで使い続けないともったいない」と考える傾向があります。その考え方自体は否定しませんが、それが社員や顧客の安全や快適性を損なっていたり、中長期的なスパンで考えた際のコスト増につながっている場合、どちらの選択がより「もったいないか」を検討すべきでしょう。ここまで説明してきたように、CREは日本の企業が直面しているさまざまな課題と密接につながっていますので、それらの課題解決をCREという観点も含めて考えてみると、より良い解決策が見つかる可能性が高いと思います。
外部に任せきりではなく、自社での検討がCREの見直し効果を最大化する
かつては不動産のプロからの提案が検討のきっかけとなることが多かったCREに関しては、まだまだ本来自社で検討すべき事項も含めて全てを外部に丸投げしてしまうケースが散見されます。しかし、それではCREの見直し効果を最大化することはできません。外部の力を借りる前に、まずは自社で以下の1〜4について検討することが大切です。
- 地図や公図などの書類を用意し、用途地域や前面道路の幅員、接道状況などの現状を把握する
- 許容できるコストや企業として守りたいことに加え、プロジェクトをリードする人材について確認する
- 上記の検討結果から、建築可能な建物を具体化するなどCREの活用法についてイメージを膨らませる
- そのイメージを具現化できる適切なプロに相談する。建物を建てて売る・貸すといったイメージであれば、想定される顧客とリレーションを持つプロが望ましい
上記の1〜4を実施したことで、より大きな効果につながった事例はいくつもあります。
例えば、築40年超の本社ビルを使用していたある企業は、度重なる仲介業者やゼネコンからの提案には乗らずにいましたが、外壁タイルの落下事故を受けてCREの見直しを決断しました。自社で初期調査やデータ収集を行った上で適切なプロに相談したところ、会社機能は賃貸オフィスに移転した上で、本社ビルは解体して賃貸マンションを建築。大手不動産会社とのサブリース契約を締結後に投資家に売却するという選択をしました。その結果、当初仲介業者から提示されていた金額を十数億円上回るキャッシュを得ることができました。
また、月極駐車場として貸し続けていた土地のさらなる有効活用を考えた企業が、募集要件を整えて入札を実施した結果、土地貸しのままで駐車場のおよそ4.5倍の賃料を得られたという事例もあります。この企業は事前に「建物を建てる資金はない」という前提条件を明確にした上での入札になりましたから、コストやリスクは最小限に抑えた上で、年間数千万円、賃貸期間全体では数十億円の収益アップを実現したことになります。
繰り返しになりますが、まずは自社内で今あるCREの課題および可能性と真剣に向き合ってみること。それがCREの見直し効果を最大化するための必須条件といえます。
最終的には適切なプロへ相談を。パートナー選びに欠かせない条件とは
その上で、CREの見直しには、複数の法律にまたがる専門的な知識と豊富な実践経験が必要になります。自社での検討後は、適切なプロに相談することが欠かせません。パートナーとしての条件は、「売買仲介だけではなく賃貸借仲介や土地の有効活用を含めた不動産取引の豊富な実務経験を持つこと」「企業の財務や資産運用に関するコンサル経験があって企業経営側の視点を持てること」「提案を具現化できる豊富なネットワークがあること」などが挙げられます。
昔から「タダより高いものはない」と言うように、コスト面、リソース面を含め自社にとって負担の少ない提案に飛びつくのはおすすめしません。長年地域に根差して事業を展開されていれば、真に善意で声をかけてくれる方もいらっしゃると思いますが、そのような方であっても貴社のCRE戦略を進める上でのベストパートナーになり得るかはまた別の話だと思います。「コストに見合う効果が期待できるか」という視点で信頼できるパートナーを選択する。これが各社にとって最適なCRE戦略を立てるための近道になりそうです。
- 回答者
- 一般社団法人不動産証券化協会認定マスター/宅地建物取引士 下市 源太郎
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