物価高騰に対して中小企業がどのように対応していったらよいか教えてください(経済産業省・中小企業庁)

経済産業省・中小企業庁は、物価高騰に対して中小企業がどのように対応していったらよいか教えてくださいと題して、下記内容を発表しました。

昨今の物価高騰については本当に苦しめられています。今後中小企業がどのように対応していったらよいか教えてください。

回答

国際紛争や為替変動による物価高騰等、外部環境における厳しい変化に対して柔軟かつ適切に対応していく必要があります。中小企業庁より公表された2023年版の『中小企業白書』・『小規模企業白書』によれば、厳しい経営環境を乗り超える上で価格転嫁の定着化が重要であるとされています。適正な価格転嫁の実現には、大きく分けて3つの対応が必要です。1つ目は、適切な原価管理、2つ目は、取引先との適正な取引関係の構築、そして3つ目は、国や公共団体等の支援制度等を組み合わせることによって、適切な価格転嫁を実現する可能性を高めることができるのです。

1.適切な原価管理ができているかを再確認していきましょう

自社の原価構造を把握し、その原価推移も見えるようにしていきましょう。原価の把握方法は、該当する業界によっても様々ですが、「材料費」・「労務費」・「経費」の3要素について、要素毎に細分化し、原価推移(月次ベース等)を把握することが重要です。

また、経済指標(消費者物価指数[総務省統計]・企業物価指数[日本銀行調査統計局]等)や自社の属する業界統計数値等を参考にすることで、今後の自社における目標原価や原価変動を予測していくことも必要です。実績と予測の両輪による原価管理を進めることが、外部環境の変動に柔軟に対応できる企業体制や仕組みづくりの一助となります。

自社の原価割合とその推移を適切に見えるようにすることで、物価高騰によって影響を受ける原価要素と受けない原価要素が見えてくるはずです。物価高騰といっても様々な要素が含まれていますので“一括り”にせずに、要因を適切に分解・分析し、自社原価への影響度を把握していきましょう。

例えば、その要素が燃料価格高騰等によるエネルギー関連に起因するものか、もしくは、急速に進む円安等のように為替変動によって、輸入材料費が増加しているのか等によって、自社の原価への影響度合いが分かってくると思います。それらを把握することで、自社の原価のうち、自社の努力でコントロール可能な原価と、自社では解決できない原価等に分解して、適切な価格転嫁の対応等を取っていくことが可能となります。

例えば、物価高騰等によって自社原価が8%増加したとしましょう。分析の結果として、増加分のうち、3% は自社内で努力可能であり、5%は自社で解決できないこと等を区分けしていくのです。

前者については、自社内での原価低減策を図る取組み等が考えられます。原価低減策の例としては、自社の生産性向上や標準化等による購入品費削減等が挙げられますし、円安の影響を受けている場合には国産品に切り替える等の施策も考えられます。

一方で、後者の原価増加分の5% は、自社だけでは解決できない増加分と考えられるため、取引先等への適切な価格転嫁を進めていくというように、対応すべきポイントを明確にしていくことが重要です。

価格転嫁は簡単なものではありませんが、少なくとも自社の原価(実績と予測)を適切に管理して把握しておくことは、生産性向上、適正な価格設定、そして価格交渉等において有効な根拠を示すための貴重な情報源となります。

2.仕入先・お客様との適正な取引関係の再構築を進めていきましょう

仕入先やお客様等といった取引先との取引関係について再確認するとともに、まずは自社で対応可能な取引の適正化を積極的に進めていくことが重要です。

仕入先について、前述した適切な原価管理によって自社の原価を見えるようにした後は、例えば、仕入先別のパレート分析等により原価を構成する仕入先の割合を把握できるようになります。過度な依存をしている仕入先の有無等を確認するようにしましょう。仕入において過度な依存先がある場合には、その取引関係が適切かどうかを見直し、仕入先の開拓等が必要な場合にはその施策を取っていく必要があります。

続いて、お客様との取引関係も同様に、納入先別収益によるパレート分析等により自社にとっての優良顧客なのか、加えて原価増分について適正な取引をしてくれているか等についても再確認していく必要があるでしょう。自社から適正な原価増となる根拠を提示しても、価格転嫁に応じてくれない取引先の場合には、中長期的な視点を踏まえ新たな販路開拓の検討等も必要になってくるかもしれません。

また、取引適正化の環境整備においてはサプライチェーン全体の共存共栄や企業規模等を越えた新たな連携を図る「パートナーシップ構築宣言」(*1)への参加を検討することも望まれます。この取組みは、「発注者」の立場から宣言企業の代表者名で宣言するものです。

サプライチェーン全体で相互に発展していくための宣言であり、取引先にも周知することで望ましい取引慣行の環境整備にもつながっていきます。また、宣言をポータルサイトに公表することで、税制面での優遇措置や各種補助金における加点措置等のメリットもあります。現在の取引先が、宣言企業なのか等もポータルサイトで簡単に確認することが可能なので取引関係の見直しにおける一つの情報源になるのではないでしょうか。

(*1) 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト

3.国・公共団体・専門家等による支援制度等を有効に活用していきましょう

自社で対応可能な取組みとして、適切な原価管理と取引適正化の取り組みについて記載してきました。これらについて自社だけで対応できない場合には、国・公共団体・経済団体等の取組みや各種支援制度を活用していきます。まずは、どのような主旨で制度等が整備されているか知ることが重要なポイントになります。自社状況に合った施策を組み合わせながら有効活用をしていきましょう。最後に政府等の動きについて紹介するとともに、価格交渉に役立つ情報の一部を紹介します。

(1) 政府・関係省庁等の動き

円滑な価格転嫁を実現させるため、政府横断で「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ(2021年12月27日)」が取りまとめられ公表されました。毎年1月から3月までを「転嫁対策に向けた集中取組期間」とする等、政府・各省庁・公正取引委員会・中小企業庁・地方公共団体等が連携し、法令に基づく円滑な価格転嫁促進施策が展開されています。前述した「パートナーシップ構築宣言」の取り組みについても、さらに拡大・実効性の強化が図られていくでしょう。

(2) 価格交渉のためのお役立ち情報

価格交渉等に役立つコンテンツの一部を以下に紹介しておきます。自社の取り組みの他、これらのコンテンツや支援制度等を組み合わせて有効活用していきましょう。なお、情報は常に更新されていきますので、実際に活用する際には最新情報を必ずお確かめください。

【適正取引支援サイト(経済産業省・中小企業庁)】

取引先との適切な関係構築のための基礎知識等をeラーニング形式で学べるコンテンツが充実しています。各種法令を含めた関連施策情報も掲載されているので、まずはこのサイトから様々な情報収集することをお勧めします。

【中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック等】

価格交渉のための必要なノウハウ・ツールといった実際の場面で活用可能な情報が整理されており、ハンドブック形式でまとめられています。直近の状況を踏まえて定期的に更新されていますので実践的な場面で活用可能な情報です。

【価格交渉支援ツール等】

適切な価格転嫁を支援するため、「価格交渉支援ツール」や「収支計画シミュレーター」等が提供されています。こちらのサイトは、埼玉県が提供する各種ツールが掲載されており、主要原材料価格推移として根拠資料を簡易的に作成可能となっています。使用しているデータは、日本銀行の公表データに基づいており正確性も担保されています。

【無料相談窓口の活用(下請かけこみ寺等)】

価格交渉等をはじめとする適正な取引がなされていない場合、無料相談の仕組みがあります。取引上の解決に向けて、専門家によるアドバイス等を受けることが可能です。

【他社の事例を学ぶ】

原油・原材料高、円安、気候変動など、激変する外部環境。その中でも、賃上げや働き方改革、女性活躍に努めて、人手不足の中でも雇用を増やしている企業や、イノベーション、地域社会課題解決に取り組む企業などの取組を紹介しています。

回答者
中小企業診断士 丸山 康明

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