経済産業省・中小企業庁は、輸出ビジネスを始めようと思いますが、契約はどうしたらいいですか?と題して、下記内容を発表しました。
回答
まず、英語の契約書を取り交わす場合には、英文契約の特徴を理解することが大事になります。そのうえで、価格、納期、危険負担、仲裁条項、契約解除条件などを取り決めておくとよいでしょう。
こうした英文契約書は、英語で書かれた契約書という側面もありながらも、契約書に書かれた文章や解釈が、英米法の影響を多分に受けている側面もありますので、今回、英米法を中心として、英文契約書にみられる主に3つの特徴と、英文契約に出てくる典型的な条項をご説明いたします。
英文契約の特徴
(1)離婚時のための文書(Divorce Document)
日本国内での取引契約文章には、双方協議の上別途定めるという文言を目にすることが多いと思います。契約時にカバーされていない事項を円満に誠実に解決するというもので、いわば、当事者間の信頼に基づく契約の考え方が表れています。
一方、英米の契約書は、「Divorce Document」という離婚の時ための文書ともいわれます。これから、ビジネス関係を構築しよう、取引を始めようとするタイミングで、契約解除や紛争時の条件を議論していくのはこうした背景もあります。契約当事者間で、順調な時には話し合いで解決することができても、不調な時には話し合いの解決は困難だからこそ、あらかじめ、最悪の事態を想定して条件を詰めていくという姿勢が根底にあります。
(2)絶対的な契約内容とAct of God
日本の契約では、契約が不履行の責任を負わせるためには、契約不履行の当事者に十分な責任を負わせる事由が必要です。それに対して、英米の契約は、台風や戦争などがあったとしても、一度契約したものは絶対に履行しなければならない。もし履行できなかった場合には金銭賠償とするとする考え方があります。そのため、Force Majeure条項という見慣れない条項がありますが、これは、テロ、戦争、台風、津波など、Act of Godと呼ばれる契約当事者の範疇を超える事象を並べて、契約履行の義務や損害賠償責任の免除を明記しているということになります。
(3)約因(Consideration)
日本においては、契約の成立は「申込に対して承諾があったとき」で、書面であっても、口頭でも形式は問わないというのが常識的にとらえられております。これは、ドイツやフランスの法体系(=大陸法)に日本の法律は多分に影響を受けております。
それに対して、イギリスやアメリカの法体系(=英米法)は、「申込に対する承諾」のほかに、Consideration(約因)」と呼ばれている重要な要素が求められます。“Consideration”を和訳すると、「熟慮、思いやり、対価」などの意味を持ちますが、契約の分野では「約因」と訳され、契約当事者がそれぞれ契約によりメリットや対価がある状態のことを指します。契約の成立には、当事者間の合意(申込に対する承諾)に加えて、この「約因」が必要で、この約因がない場合には、法的拘束力(法的強制力)を認めないとされています。通常のビジネスでは、売買契約など「双務契約」が多いので、契約による対価は何かを確認しておくとよいでしょう。
英文契約の典型的な条項
英文契約書には、秘密保持契約(Non Disclosure Agreement)、売買契約書(Sales Agreement)、販売店契約書(Distributor Agreement)など文書の形式がありますが、以下のような典型的な条項が並びます。
- 定義 Definition
契約は、当事者間で同じように解釈をできるようにするために、契約上よく用いられる用語を明確に定義します。 - 瑕疵担保責任 Warranties
売買契約では、売主が買主に対して、商品やサービスの品質や性能を保証する規定がおかれます。買主としては多くの保証を求めるでしょうから、交渉事項になりやすい条件です。 - 秘密保持 Confidentiality
仮に契約を解除した場合でも、商品やサービスのノウハウなど競合などに渡らないようにするために、秘密保持義務を一定期間存続させる方法もあります。 - 契約期間と解除 Term & Termination
例えば、事実上取引関係やパートナーシップ関係が終了していても、契約が残ってしまうと、義務を永続的に履行しなければならないなど負担が生じます。そこで、一定条件で契約解除(Termination)をできたり、一定期間(Term)ごとに契約更新を行うなどの条件を設定するとよいでしょう。 - 救済 Remedies
相手の契約違反で被った損害を救済される手段を取り決めます。英米契約法においては、金銭賠償が原則とされておりますが、金銭だけでは不十分な場合もありますので、一定の場合には「差し止め」や相手方に提供した製品や資料などの返還を求める特定履行(Specific performance)を求められるようにするケースもあります。 - 不可抗力 Force Majeure
台風、地震、津波などの自然災害や戦争、伝染病や政府による法律や命令など、契約当事者間の管理の及ばない事象や状況を不可抗力といいます。英語では、神の仕業(Act of God)と表しますが、契約書では慣例的にForce Majeureとフランス語で表します。英米法の契約書では、基本的には、自然災害や天災などが起こったとしても契約を履行するという厳格な適用が原則ですが、不可抗力事項を設けることで、例外的に履行できない契約当事者を救済するという規定となります。 - 譲渡 Assignment
原則的には、契約の当事者は自由に契約上の権利を第三者に譲り渡すことできます。しかし、お互いを信頼して契約しているのが通常であるため、第三者への譲渡に一定の制約を加えるのがこのAssignmentの条項ですが、内容としては、譲渡禁止を明記している条項です。 - 権利放棄 Waiver
Waiverという権利放棄という条項ですが、例えば、当事者で契約上規定されている権利を行使しないからといって、権利を放棄したものとみなされないという権利の不放棄を記載した条項となります。 - 紛争解決 Dispute Resolution
代金の未払いや製品の保証が不十分などの問題が起きてから、解決の手段を話し合うのは遅いため、あらかじめ、裁判手続き(Jurisdiction)や、代替手段として仲裁手続き(Arbitration)などのトラブル解決の手段を契約締結時に決めておくのが重要です。 - 準拠法 Governing Law
契約当事者間で争いが生じた場合に、契約の解釈基準を設けるため、契約当事者間で合意した国・地域の法律に従う場合、その法律を準拠法といいます。裁判管轄を日本、準拠法をシンガポール法というのではなく、準拠法の国と裁判管轄の国は一致させておくとよいでしょう。
英文契約の交渉が開始したら・・・
いきなり法律専門家に依頼するのではなく、可能であれば、上記の特徴などに留意して、英文契約書を一度読み、ビジネスリスクを把握頂くことが理想的です。とはいえ、専門家に支援依頼するときは、交渉に至った時の議事録や出張報告なども共有して、ビジネスの状況をお伝えになるとより効果的な支援を得られるでしょう。
- 回答者
- 中小企業診断士 小島 洋介
同じテー
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