経済産業省・中小企業庁は、カーボンニュートラルをめざすSBTには中小企業も参加できますかと題して、下記内容を発表しました。
回答
SBTでは、温室効果ガス排出量削減の対象範囲を狭めたり、削減目標の審査を不要とするなどの中小企業向けのコースが用意されています。
SBTは、世界の気温上昇を産業革命前にくらべ、1.5℃に抑えることを目指す(パリ協定)ことと整合した温室効果ガス排出削減目標のことです。SBTを推進する組織体は、RE100などとともにカーボンニュートラルを目指す「イニシアチブ(計画、構想の意)」といわれています。日本でも大企業を中心に参加する企業が増えています。
今回は主なイニシアチブを紹介したのち、SBTの中小企業対応の状況について述べます。
SBT、RE100およびRE100の中小企業版ともいうべき再エネ100宣言RE Actionの違いを整理したものが表1です。
RE100および再エネ100宣言RE Action は対象を電力に限定しており、SBTは電力以外を含む温室効果ガス排出源全体を対象としているのが大きな違いです。
(1) SBTとは
SBTには通常のSBTと中小企業向けSBTがありますが、まず、通常のSBTの内容を知る必要があります。
SBTは、「Science-based Targets」の頭文字を取った略称で、日本語では「科学的根拠に基づく目標」となります。すなわちSBTイニシアチブとは、企業に対し「科学的根拠」に基づく「二酸化炭素排出量削減目標」を立てることを求めているイニシアチブです。
SBTに参加することにより、パリ協定に整合する持続可能な企業であることをステークホルダーに対してアピールできます。
SBTに参加した事業者が行う作業の全体の流れは次のようになります。
①2年以内にSBTの目標を設定するという宣言(コミットメントレター)を事務局に提出する。
②目標を設定し、SBTの認定を申請する。
③SBT事務局が目標の妥当性を確認し、回答する。
④認定された場合は、SBTのウェブサイトにて公表される。
⑤排出量と対策の進捗状況を、年一回報告し、開示する。
⑥定期的に、目標の妥当性を確認する。
日本では、図1のように、①のコミットした事業者が29、②の認定を受けた事業者が93と米国に次ぎ多くなっています。
SBTでは、排出量を次の3つに分けています。
Scope1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope3 : Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
この中でScope3は、自社の上流に当たる材料、部品の製造、運搬および下流にあたる製品の使用、廃棄に関わる排出量を含みます。
このScope1から3までの考え方は、SBTに限らず、サプライチェーン排出量削減の対象を論ずるときに多く用いられます。自社の納入先から、Scope3の排出量調査として、質問が来る可能性もあります。
なお、「他者のクレジット(排出権)の取得による削減は、企業のSBT達成のための削減に算⼊できない。ただし、SBT達成を超えた貢献をしたいという場合のみ、認める。」とされているので注意を要します。
(2) 中小企業向けのSBTとは
中小企業向けSBTと通常のSBTの違いは表2のようになっています。
主な相違点は次のとおりです。
①対象企業
中小企業向けSBTでは、対象企業は、従業員500人未満、非子会社、独立系企業であること、を満たすこととなっています。
②削減対象となる排出源
中小企業向けSBTでは、温室効果ガス削減対象範囲としてScope3は除かれます。Scope1の事業者自らが排出する分とScope2の供給を受けた電気等で間接的に排出する分のみが対象です。上流に当たる、自社に材料や部品などを納入している事業者や、下流に当たる製品等の納入、販売先での排出量は対象としません。すなわち、排出源をサプライチェーンとしてとらえることはしません。
③目標に対する事務局の審査
通常のSBTでは、事業者が排出量削減の目標値をSBT事務局に提出し、事務局の審査を受けますが、中小企業向けSBTでは、この審査はありません。事業者が提出した目標値を事務局がそのままインターネット上に掲載します。
(3) 中小企業における事例
SBTまたはRE100に取り組んだ中小企業の事例が以下に掲載されています。
- SBT(Science Based Targets)について環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ、P.41、p.124
- 中⻑期排出削減⽬標等設定マニュアル環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ、P.4
- 回答者
- エネルギー管理士 本橋 孝久
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