近年、物流・ロジスティクス業界の人手不足が深刻なのはなぜでしょうか?(経済産業省・中小企業庁)

経済産業省・中小企業庁は、近年、物流・ロジスティクス業界の人手不足が深刻なのはなぜでしょうか?と題して、下記内容を発表しました。

自分の技術や経験を課題解決に生かせるようなビジネス領域について調べています。近年、物流・ロジスティクス業界の人手不足が深刻なのはなぜでしょうか?

回答

背景には、少子高齢化や生産年齢人口(就業人口)の減少といった日本の社会問題があります。加えて、トラックドライバーの賃金や労働環境面への懸念から業界の担い手が減少傾向にある一方、物販系のEC市場は年々成長しています。この需給のミスマッチが拡大していることが 、業界の人手不足が深刻化する最大の要因です。2024年には時間外労働の上限規制も加わることから、この問題はさらに加速すると予想されており、一刻も早い課題解決が求められています。

過当競争の激化、業界の意識不足、社会的需要増で人手不足が深刻に

物流・ロジスティクスの重要な役割を担う運送業界では、平成2年の貨物自動車運送事業法改正によって規制が緩和され、同年4万社程度だった参入企業が5年後には6万社を超えるまでに激増しました。これによって過当競争が激化したほか、旧来から続く「元請け」「下請け」「孫請け」という物流業界の多重下請け構造も重なり、運賃相場が下落。結果的に「トラックドライバーの賃金低下」を招きました。同時に、全産業平均に比べ2割ほど長いといわれる労働時間や、荷受け荷下ろし時に発生する力仕事への懸念もあり、より良い待遇の業種に労働力が流れていったというのが実情です。

こうした課題が改善されない背景には、物流・ロジスティクス関連企業の認識の問題もあります。日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の2021年度アンケート調査によると、ロジスティクスやサプライチェーンマネジメント(SCM)を推進する上での課題として、最も多い52.6%の企業が挙げたのが「物流コスト削減(物流コスト改善)」。まだまだコスト削減への意識が高い一方、「ロジスティクスやSCMを経営戦略にすること」を挙げたのは13.7%にとどまりました。企業において「物流」は、かねてより「生産」や「営業」に比べ重視されない傾向がありましたが、関連企業の間ではいまだにこの傾向が根付いたままであることが、業界の高度化がなかなか進まない要因になっていると考えています。

そのような状況にも関わらず、IT化の進展に伴い「BtoC-EC」(消費者向け電子商取引)市場は成長を続けています。さらに昨今のコロナ禍で物流・ロジスティクスが欠かせない「物販系EC」の利用者は大幅に拡大し、より多くのドライバーが必要になりました。この需給のミスマッチは、働き方改革関連法による時間外労働時間の上限規制が自動車運転業務にも適用される2024年4月以降、さらに拡大すると予想されます。社会的ニーズは高く、今後の継続的な成長も期待できるのに、その受け皿を確保できない。こうしたジレンマを解消する新たなビジネスモデルの一刻も早い台頭が待たれているところです。

あらゆる局面での高効率化が進むものの、さらなる加速が求められる

当然、前述のような諸課題の解消に向け、さまざまな取り組みが進行中です。輸配送における「自動運転」や「ドローン配送」などがその一例。こうした新技術の活用とともに、ドライバー一人の運送量を拡大する「連結トラック」の実用化に関しても、各地で社会実証が進められています。また、複数の企業でトラックを共有する「共同輸配送」も、今後より幅広い業種間に広がっていくことでしょう。加えて、物流拠点では、ロボットや画像認識といった最先端技術の活用も進んでいます。さらに、リードタイムの見直しやトラックバースの予約システムの導入による待機時間の削減、手荷役等付帯作業に関して書面契約を交わすといった取引の適正化なども進展しており、物流・ロジスティクスにおけるあらゆる局面での高効率化が急ピッチで進められているところです。

ただ、その改善スピードはまだまだ十分とはいえません。特に経営の効率化に資するサプライチェーンの構築に関して、日本はまだその途上にあり、企業間連携に必要な「標準化」の取り組みは遅々として進んでいません。また、業界の現状を正しく理解し、全体の価値向上に資する取り組みを実践できる高度人材の育成も急務です。JILSでは、こうした取り組みを加速させていくため、これからのロジスティクスのあるべき姿を「ロジスティクスコンセプト2030」にまとめました。同コンセプトの中では、「①ロジスティクスを再定義しよう」「②サプライチェーンを再構築しよう」「③標準化を猛烈に進めよう」「④適切な投資をしよう」「⑤データ共有型プラットフォーマーを育てよう」「⑥ユートピアへの準備をしよう」「⑦提言1から6を実行できる高度人材を育成しよう」という七つを提言。とりわけ業界全体の高度化の鍵を握る経営層の意識改善に向け、ロジスティクスの正しい定義や考え方の普及に取り組んでいます。

ロジスティクスコンセプト2030「7つの提言」

これからの物流・ロジスティクスのキーワードは「標準化」

取り組みを加速させるには、業界内部だけではなく、外部の知見を積極的に取り入れることも不可欠です。 新規参入者には、既成概念にとらわれない新しい考え方や取り組みを業界に持ち込み、課題解決を後押しすることが求められています。その際、「カスタマイズではなく、標準化を通して価値を提供するビジネスモデルの構築」「旧来のKKD(経験・勘・度胸)とは一線を画すデータ・論理を尊重する経営」「企業間連携を促す業種横断的(クロスインダストリー)なビジネスモデルを企図し、資金調達から社会実装までを見据えた取り組みの推進」などのポイントを押さえて事業を検討するといいでしょう。2010年以降に業界に参入してきた比較的新しい企業の中では、独自のトラックバースの予約システムや動態管理システムなどにより業界のDXを推し進めている企業や、ラストワンマイルの最適化を目指してAIによる配送サービスを展開する企業、荷主と配送パートナーを直接つなぐプラットフォームを提供する企業などが活躍しています。

前述したように、これまでの企業経営において物流は後回しにされてきた傾向があり、現在でも物流部門は「部分最適」にとどまっているケースが多く見受けられます。広範な領域に関わる物流・ロジスティクスのさまざまな課題に対応するには、「全体最適」を志向する俯瞰的な視座が欠かせません。逆にいえば、その全体最適をサポートできる商品やサービスさえあれば、まだまだ「ブルーオーシャン」が広がっている領域といえるかもしれません。繰り返しになりますが、その業界の課題解決に向けて重要なキーワードは「標準化」です。自社の取り組みやSCMの全体最適を実現しつつ、業界の「標準化」を前進させるような企業の積極的な参入が待たれています。

回答者
公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)

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