経済産業省・中小企業庁は、事例から学ぶ「ものづくり補助金」と題して、下記内容を発表しました。
「ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」は、中小企業・小規模事業者等が取り組む「革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善等」を支援するための補助金です。また、国の政策目的にあわせた、賃上げ・デジタル化・脱炭素・海外市場開拓等の「特別枠」もあります。「ものづくり補助金」という通称で呼ばれますが、製造業だけでなく、小売業・卸売業・サービス業など、すべての業種の事業者が利用できます。
今回の「事例から学ぶ」シリーズでは、ミラサポplusの事例ナビから、ものづくり補助金の活用事例を紹介しつつ、ものづくり補助金の概要についても説明します。
なお、ものづくり補助金は、事業年度等によって申請要件・補助対象経費・特別枠などが異なることがあります。ここで紹介する事例は過年度の採択事例であるため、同種同様の事業であっても要件を満たさないこと、採択されないことがあります。申請にあたっては、最新の「公募要領」をご確認ください。
革新的サービスの開発・試作品開発・生産プロセスの改善を支援
「ものづくり補助金は、「革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行い、生産性を向上させるための設備投資等を支援」する補助金です。
申請にあたっては、①補助事業の具体的取組内容、②将来の展望、③付加価値額等の算出根を含んだ「事業計画書」等を作成します。
事業計画書は、「技術面(製品やサービスの開発が革新的か、など)」「事業化面(市場性はあるか、収益性・生産性は向上するか、など)」「政策面(地域経済への貢献、国の政策(賃上げ・デジタル化・脱炭素・海外進出等)に合致しているか、など)」から審査され、採択・不採択が決まります。このような審査項目・加点項目は、補助金の事業年度によって変更される場合があります。審査の結果不採択となり、補助金がもらえないこともあります。
ものづくり補助金の「事業計画書」の作成にあたって、商工会議所・商工会、金融機関、税理士・中小企業診断士等の専門家等の支援機関が支援するケースもありますが、支援機関はあくまでアドバイスです。事業計画書は、事業者自らが主体的に考え、自らの責任において作成・申請にしてください。
繰り返しになりますが、ものづくり補助金は度々、申請要件・補助上限・特別枠が変更になります。申請にあたっては、必ず最新の「公募要領」を確認するようにしてください。
革新的な「新製品・新サービス開発」のための設備投資
ものづくり補助金の「技術面」の審査項目には「新製品・新サービスの革新的な開発となっているか」という文言があります。この「革新的」については、自社にとっての新製品・新サービスであり、地域・業界でもあまり一般的ではないものと考えれば良いと思います。
たとえば、長野県で自動車用のゴム部品を製造するメーカーは、ものづくり補助金を活用して、シリコーンゴム等の製造技術を応用して、首・肩・腰などの凝りを和らげる一般医療機器を開発しました。
主力である自動車用製品の他に、医療、次世代自動車、航空機等の成長分野に向けた新製品・新素材開発を積極的に進めており、樹脂分野においてはスーパーエンプラ材による各種インサート成形部品の製品化に成功している。
また、埼玉県のCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形メーカーは、CFRPの軽量・高弾性・高強度な特性を活かして、脊髄を損傷した方のための二足歩行アシスト装具を開発しました。この試作開発等にものづくり補助金を活用しています。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が有する軽量・高弾性・高強度な特性を活かし、装具歩行の運動効率向上、無動力膝関節機構による健常者歩容に近い歩行を実現する装具開発とC-FREXというブランドの確立。
製造業の例を挙げましたが、ものづくり補助金は製品だけでなくサービスの開発にも利用できます。鳥取県の結婚式場は、旅するウエディングをコンセプトに、観光事業事業者と連携した「ブライダルツーリズム」の開発等を行いました。インバウンド需要をターゲットに、香港でのSNSライブ配信、体験チラシの作成などを実施しました。
旅するウエディングをコンセプトに、オンラインでの海外現地ニーズ把握や山陰の魅力発掘と並行したライブ配信等で地域PRを行い、地域事業者等と連携し観光事業とウエディング事業を融合した新たなサービスを構築する。
愛知県の飲食店は、テイクアウト・デリバリー部門のサービス開発のため、専用ホームページを開設し、真空包装機、特殊冷蔵庫を導入しました。また、販売代理店との間で、「注文→調理→会計」を行う情報システムを構築し、労働生産性向上も図っています。
魚介類を中心とする飲食店「まるは食堂」や宿泊施設を経営。エビフライが名物。 テイクアウト・デリバリー部門を強化すべく、IT投資、設備投資を実施。
「生産プロセスの改善」のための設備投資
ものづくり補助金は、事業者の「生産プロセス改善」のための設備投資を支援します。しかし「機械設備が旧くなったから更新したい」では補助対象になりません。事業計画が、ものづくり補助金の要件を満たし、審査項目の「技術面」「事業面」「政策面」から妥当性が認められ、採択される必要があります。
長崎県の酒造メーカーは、瓶詰や火入れ(殺菌)といった工程の全自動化を実現しました。これにより、外気温に触れる前に充填できるようになり、高品質な日本酒の製造が可能となりました。同社の事業は、地域資源(地元産の米)の活用、海外販路開拓といった「政策面」にも合致しています。
ものづくり補助金を活用し、これまで人力に頼る部分が大きかった瓶詰や火入れ(殺菌)といった工程の全自動化を実現した。この補助事業により、搾られた日本酒が外気温に触れる前に素早く充填するため、フレッシュな味質を維持した高品質な日本酒の製造が可能となった。
岐阜県の高級包丁メーカーは、全生産工程を自社管理し、職人技を必要としない単純作業は機械による自動化を進め、高品質と量産を両立しました。その先には、世界の高級デパートでの販売展開、包丁と言う日本の伝統的な製品の「海外販路開拓」があります。
伝統技術と職人技に最先端のテクノロジーを融合させることにより、最高の切れ味とデザイン性を兼ね備えた「魅せる包丁」を企画し生産。最先端マシンのほかIoTやRPAなどを率先して導入することにより、職人技による分業体制が大宗を占める刃物産地において、最大150工程にも及ぶ生産工程を内製化した。
香川県のあるメーカーは、昼間は熟練者による難加工、夜間・休日はロボットによる量産型ワークの連続運転を行うことで、熟練者が付加価値の高い加工に専念しやすい環境をつくり、生産性向上に成功しました。あわせて、「働き方改革」、「人手不足時代に適応した技術者育成の仕組みづくり」にも取り組んでいます。
安全柵が不要な協働ロボットを導入し、昼間は従来通り熟練者による難加工を行いながら、夜間・休日はロボットでのワーク脱着により量産型ワークの連続運転を行うことで、熟練者が付加価値の高い加工に専念しやすい環境づくりを行った。
福島県の高精度金型メーカーは、ものづくり補助金を活用し、機械導入やICT・IoT環境を整備しました。これにより設備の負荷状況を一元的に管理しながら、融通性の高い生産計画の立案が可能となりました。若手社員への「技能承継」のために、ICTによる技能の可視化にも取り組んでいます。
ものづくり補助金を活用し、機械導入や社内ICT・IoT環境を整備した。これにより設備の負荷状況(負荷オーバー状態や遊休状態)をオフィスPCや携帯電話・タブレット端末から一元的に把握でき、設備ごとの負荷状況を確認しながら融通性の高い生産計画の立案が可能となった。
「農業分野」でも、ものづくり補助金を活用
製造業だけでなく、農業分野でもものづくり補助金を活用することができます。
熊本県で、「地域資源」である「紫蘇(しそ)」の生産から加工品開発・販売・輸出まで行う企業は、ものづくり補助金で、ICT活用による圃場管理や収穫後の品質管理工程における自動選別システム等を導入しました。これにより、作業負担が86%削減、作業効率が6.7倍向上したそうです。
ものづくり補助金を活用してICT活用による圃場管理や収穫後の品質管理工程における自動選別システム等を導入し、作業負担が86%削減、作業効率が6.7倍向上した。先端農業に取り組むことで積極的な女性採用・登用(役員、経理部門の要職に女性を登用)、高齢者雇用、外国人材の受入れを可能にしている。
茨城県でさつまいもの卸・販売をしている企業は、品質向上と人手不足への対応のため、AI技術を活用してさつまいもの生産ラインの自動化を図るとともに、「独自技術で糖度を高めたさつまいもをオリジナルブランド」として展開しています。
ものづくり補助金を活用して、AI技術を活用したさつまいもの生産ラインの自動化に努めている。加工品については、外注による製品製造から、自社生産体制強化を積極的に進め、内製化にも取組んでいる。
まずは、経営課題解決のための事業計画づくりから
前ものづくり補助金の事業計画では、「新製品・サービスの開発や生産プロセスの改善」のための課題を明らかに、その課題解決のための「設備投資等」の必要性を示し、その事業効果について根拠を示していくことが求められます。
金属部品の量産や試作事業を手掛ける京都府のメーカーは、顧客から受注して製造するという「請負型」のビジネスモデルに限界を感じていました。今後の方向として、顧客の新製品開発の際に重要な部品を自社製品として開発・製造する「提案型」ビジネスモデルへの転換をめざしており、そのために必要となる生産設備の開発・導入のために、ものづくり補助金を活用しました。
自社製品の開発に当たり、同社内の意識を「顧客の要望にどのように応えるか?」という考え方から、「顧客が求めるもの・解決したい課題は何か?そのためにどのような製品・部品が必要か?」という考え方に変えていった。また、ものづくり補助金を活用し、新たな生産設備の開発や導入を行い、生産体制を整備した。
ものづくり補助金などの補助金は、事業者が抱える経営課題を解決するための手段の一つにすぎません。「設備投資」のための補助金ありきではなく、まずは経営課題を把握し、解決のための事業計画を策定することが重要です。
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