中小企業はバックオフィスの業務改善にどう取り組むべきでしょうか(経済産業省・中小企業庁)

経済産業省・中小企業庁は、中小企業はバックオフィスの業務改善にどう取り組むべきでしょうかと題して、下記内容を発表しました。

コロナ対応などで社内ルールが大きく変わり、バックオフィス担当者たちが対応に追われています。中小企業はバックオフィスの業務改善にどう取り組むべきでしょうか

回答

一言で「バックオフィス」と言っても、人事、経理、一般事務、総務、財務など多岐にわたっています。その全ての業務に共通するのが、「オペレーション」(バックオフィスの処理能力)と「コミュニケーション」(フロントオフィスとの協力体制)だと思います。まずは自社のバックオフィス業務をこの「オペレーション」と「コミュニケーション」の視点から観察し、それぞれにどのような問題が発生しているかを確認することから始めてみましょう。

バックオフィスの業務集中という問題は、今に始まったことではない

コロナ禍や働き方改革の進展などにより、会社の在り方が大きく変わりつつある今、細かい社内ルールの変更などに対応する各社のバックオフィス担当たちからは、大きな悲鳴が聞こえてくるようになりました。ただ、こうした社会の変化は、この問題の深刻さが表に現れるきっかけにはなりましたが、バックオフィスに業務が集中する主だった要因ではありません。バックオフィスの業務過多という問題は、それ以前から長い間存在していました。

ではなぜバックオフィスに業務が集中するのでしょうか。その主な要因としては、以下の4つが考えられます。

1.「そもそも無駄な業務が多い」

フロントオフィスの一人一人と同じやりとりを何度も繰り返すなど、業務そのものが非効率であるケースが多いです。

2.「人手不足に陥りやすい体質的問題がある」

コスト部門であるバックオフィスは、どれだけ業務過多の状態であっても、回っている限りは人員補充を先送りされてしまう傾向があります。

3.「業務が属人化している」

ベテラン社員の経験とスキルなしでは回らないケースが多いため、ノウハウが継承されにくい点も一部の担当者に業務が偏る一因になります。

4.「プレッシャーが強い」

バックオフィス担当者には、「ミスが許されない」という大きなプレッシャーがかかります。そのため臨機応変な対応を躊躇しがちになり、業務が滞ってしまう要因が生まれます。

先に挙げた「オペレーション」と「コミュニケーション」を適正化することで、このようなバックオフィスの問題は次のような改善が期待できます。

オペレーションの適正化とは、承認ルートの整備などを通じた「業務の可視化」と、マンパワーに頼らずに業務の迅速化を図る「各種ツールの導入によるシステム化」が考えられます。業務を可視化すれば、2の体質や3の属人化といった問題から目を背けることができなくなり、システム化は1と3のような課題の解決に役立つでしょう。

一方、コミュニケーションの適正化は、バックオフィスに対する「依頼手順のマニュアル化」と、バックオフィスが使用する各種ツールやシステムに関する「教育の徹底」といえます。これは、1のような無駄な業務が生まれにくい社内環境の構築に効果的です。オペレーションとコミュニケーションが適正化された場合、バックオフィスの業務範囲や役割も次第に明確になっていき、4のような強いプレッシャーの緩和も期待できるでしょう。

こうしたことにより「ヒューマンエラーの軽減」「業務の属人化の防止」「業務時間の短縮」という効果に加えて「フロントオフィスとの相乗効果」も生まれ、生産性や顧客対応意欲の高い企業風土の確立および「従業員満足度」や「社員の定着率」が高い企業につながっていくわけです。

バックオフィスの業務改善は、会社全体の業務改善という意識を

バックオフィスの「業務改善」3ステップ

バックオフィス業務の改善=会社の業務改善です。進め方も、そのほかの業務改善と大きな違いはありません。まず、オペレーションとコミュニケーションの現状を正確に把握した上で、ステップ1では改善すべきこと(=問題)を定義するために、問題が何に悪影響を与えているのか、その問題を取り除くことで悪影響が改善するのかを検証します。続いて、問題の因子を特定し、それを取り除く施策を計画して実行するステップ2へと進みます。ここまでで問題が改善しないのであれば、問題の方ではなく業務内容を変えることで悪影響を解消するステップ3を試しましょう。このステップ1〜3のサイクルを諦めずに繰り返し実行することで、改善は進むはずです。

上記のような取り組みを始める上で、過去にペーパーレス化やアウトソーシング化といった業務改善施策を試みて失敗した例があるのであれば、もう一度「オペレーションとコミュニケーションの最適化」という視点を意識しつつ試してみることをおすすめします。全くのゼロではなく前回のベースを生かせるため、スムーズに進む可能性が高まると思います。ただし、担当者は以前と別にした方がいいでしょう。

大切なのは、経営層と従業員が歩調を合わせて取り組むこと

「利益=売上−コスト」という絶対の計算式に照らし合わせると、バックオフィスの改善はコスト改善に他なりません。コスト改善は、企業の基礎体力を強化し、不足の事態に備え、フロントオフィスによる「売上拡大」を支える重要な要素になります。また、「売上拡大」のような瞬間風速は生じませんが、大きな投資をせずとも地道にコツコツと進めることができる業務改善です。リソースにあまり余裕のない中小企業でも、取り組みやすい業務改善の一つといえるでしょう。

最後に、どのような業務改善であっても、その効果を最大化するために大切なのは、経営層と従業員が同じ方向を向き、歩調を合わせて進むことです。そのために、経営層は業務改善がもたらすメリットを発信し続けるとともに、従業員には他部署のことであっても自分自身のこととして取り組むような意識を植え付けていく必要があります。地道な努力の連続にはなりますが、その効果にはきっと満足されることでしょう。

回答者
中小企業診断士・社会保険労務士 齋藤 裕子

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