経済産業省・中小企業庁は、「インバウンド需要を取り込むポイントを教えてください。」と題して、下記内容を発表しました。
回答
インバウンド需要とは、日本の観光業の文脈においては、「訪日外国人の日本国内における商品・サービスへの需要」のことです。インバウンド消費とも呼ばれ、「特定の国や地域に対して外国からの観光客や訪問者が増加することによって生じる需要・消費」を指します。
(1)目的・目標の明確化
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(2)ターゲット顧客の絞り込み
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(3)顧客ニーズに合った商品・サービスの開発・提供
というステップを確実に踏むことが、「需要を取り込む」即ち「需要を収益に結びつける」ための外せないポイントです。
確実な回復を見せる訪日外国人旅行者数
2023年7月19日に発表された日本政府観光局(JNTO)の推計値では、2023年1月〜6月累計の訪日外客数(訪日外国人旅行者数)は1071万人。コロナ禍前の2019年1月~6月累計の1663万人対比▲592万人(▲36%)まで回復しています。
国・地域別では、1位は韓国、2位は台湾、3位は米国、4位は中国(海外団体旅行解禁前)、5位はタイとなっており、「インバウンド需要のターゲットとしては、近隣アジア諸国と米国が特に大きい」という点は、コロナ禍前と変わっていません。欧州諸国や豪州からの観光客も見逃せませんが、近隣アジア圏と米国が引き続きボリュームゾーンであることは覚えておきましょう。
日本人向けでも外国人観光客向けでも、新規市場・新規顧客向けに事業を展開する際には、「STEP1 目的・目標の明確化 → STEP2 ターゲット顧客の絞り込み → STEP3 顧客ニーズに合った商品・サービスの開発・提供」というステップを段階的に確実に踏むことが、「需要を取り込む」即ち「需要を収益に結びつける」ための外せないポイントであることに変わりはありません。
以下、この3つのステップに沿って、インバウンド需要を大きく取り込める可能性がある業種(観光業、小売業、飲食業、運輸業、娯楽業、宿泊業等)、業態(BtoC中心)、及び実際にコロナ禍で需要がほぼ消滅したように、社会・政治・経済状況の影響を強く受けるという特徴・リスク等を踏まえて、各ステップを確実に踏むことの必要性、期待される効果を中心に解説します。
需要を取り込む(需要を収益に結びつける)ためのステップ
STEP1 目的・目標の明確化
「インバウンド需要の取り込みを開始する」とは、「インバウンドという新たな市場で、外国人観光客という新たな顧客向けの事業(新規事業)を立ち上げる」ことにほかなりません。新規事業を立ち上げる際、目的・目標の明確化は効率的かつ効果的な事業運営の基盤となり、成功への道筋をつける重要なステップで、以下の効果をもたらします。
- 方向性の確立:目的と目標を明確にすることで、事業の方向性が定まります。これにより、事業の計画や運営がスムーズに進められるようになります。
- リソースの最適化:何を目的とするか、何を達成したいのかが明確であれば、人材・資金・時間等のリソースの最適な配分が可能になります。
- 意思決定の容易化:目的と目標が明確であれば、目標に対してどれだけ効果があるのかを判断基準とすることができ、事業における様々な意思決定を行いやすくなります。
- 測定・評価の容易化:目標を設定することで進捗の測定と評価が容易になり、達成度を定期的に検証することで、必要に応じて戦略の修正や改善を行うことができます。
- リスク管理:目的と目標を明確にすることで、あるべき姿と現状との乖離が見えるようになり、潜在的なリスクを早期に特定し、適切に対処しやすくなります。
リスク対応が遅れて大きな損失につながったという事態を回避するためにも、目的・目標の明確化は非常に重要です。既存事業において、このステップをまだ踏んでいない場合は、良い機会と捉えて、インバウンド需要の取り込みという新規事業とその相乗効果も含めて、目的と目標を明確化することをお勧めします。パンデミックの再発生等の大きなリスクに備えて、コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)を作成しておくことも大切です。リスクへの備えとして、中小企業が取り組みやすい「事業継続力強化計画」の認定制度もあります。
STEP2 ターゲット顧客の絞り込み
ターゲット顧客の絞り込みはビジネスのあらゆる側面で重要な役割を果たすステップで、目的・目標の明確化と同様、貴重なリソース(経営資源)の有効活用のためにも重要です。この後のステップの「顧客ニーズに合った商品・サービスの開発・提供」とも密接に結びついています。必要性と期待される効果は、以下の通りです。
- リソース配分の効率化:ターゲット顧客を絞り込むことで、限られたリソース(人材・資金・時間等)を効率的・効果的に使えるようになります。
- 販売戦略の最適化:ターゲットとなる顧客層向けに特化した効果的なアプローチが可能になり、ターゲット顧客の購買行動・変化に合わせた販売戦略の最適化にもつながります。
- 製品の最適化:顧客のニーズに合った商品・サービスを提供するためには、ターゲットとなる顧客層の十分な理解が必要です。ニーズに対応した製品開発は事業の成功確率の向上に直結します。
- 効率的なプロモーション:ターゲット顧客を絞り込むことで、広告等のプロモーションを効率的に行えるようになります。ターゲットとしない顧客向けの無駄な広告支出の削減等によりROI(投資対効果)を高めることができます。
一例ですが、「近隣アジア諸国からビジネスクラスを利用した個人旅行で訪日する60代の孫のいる夫婦」と「米国から弾丸ツアーの団体旅行で訪日する20代の独身者」という属性が異なる顧客のどちらのニーズに合わせるかによって、取るべきマーケティング戦略(製品・価格・チャネル・プロモーション戦略)も大きく異なってきます。
STEP3 顧客ニーズに合った商品・サービスの開発・提供
顧客ニーズに合った商品・サービスの開発・提供は、「需要を収益に結びつける」ためだけではなく、企業の成長やブランド価値の向上のためにも欠かせないステップです。期待される具体的な効果は以下の通りです。
- 競合との差別化・売上増:競合他社との差別化につながり、より高い価格・より多い数量の販売の実現に寄与します。「売上高=単価×数量」ですので、結果として売上高が増加します。
- 顧客満足度の向上:顧客満足度を高めることができ、再訪日時のリピート購入や家族・親戚・友人等への口コミ等での将来的な波及効果が期待できます。
- ブランド力の向上:ブランドの認知度・イメージ・評価が向上します。既存の商品・サービスも含め、日本国内・海外市場向けのビジネスチャンス拡大の可能性をもたらします。
- リスクの軽減:顧客ニーズの変化を早期に捉えることで、新たなトレンドの出現等による需要変動・売上減少のリスク(陳腐化リスク)を軽減・回避しやすくなります。
競合他社対比の優位性を判断・検証する際の切り口として、「Q(Quality=品質)・C(Cost=コスト・価格)・D(Delivery=納期)」を意識することをお勧めします。定期的な検証による陳腐化リスクの回避は持続的な成長の実現につながります。
顧客目線・現場目線で考える
最後に、上記3つのステップを確実に踏んだうえで2つの留意点について解説します。
留意点1:言葉の壁を作らない
基本的なことですが、顧客である訪日外国人と言葉が通じず意思疎通ができないという事態は絶対に避けるべきです。外国語対応可能なスタッフの確保、翻訳サービスの活用、店内の掲示板やリーフレット・メニューの外国語併記等を確実に実施して言葉の壁を作らないようにしてください。
留意点2:通信・決済環境を整備する
こちらも基本的なことですが、STEP3で獲得した顧客満足を失わないためにも、諸外国に比べて遅れているとの評価があるインターネットやクレジットカード・オンライン決済環境を確実に整備することが必要です。
上記の留意点はともに、ターゲット顧客(STEP2)の目線で考えれば、最低限必要な対応であることは明らかです。他にも留意すべき点は多く考えられ、業種、業態、提供する商品・サービスの内容等によって優先順位も異なりますが、BtoC中心であることを踏まえると、実際にターゲット顧客に接する現場の担当者の意見も取り入れ、現場目線で考えることが重要なポイントです。経営者では気づかないけれども顧客にとっては重要な改善すべき点が見えてきます。
顧客目線・現場目線での工夫も重ねて、インバウンド需要の取り込みを成功させてください。
- 回答者
- 中小企業診断士 後藤 啓介
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