経済産業省・中小企業庁は、費用を削減するほかに、資金繰りをよくする方法はありませんかと題して、下記内容を発表しました。
ここ数年、売上が伸びなくなりコスト削減に務めていますが、なかなか資金繰りが良くなりません。コストを削減する以外に、資金繰りを改善する方法があれば教えてください。
回答
資金繰りを考える際には、資金の量だけを考えがちです。しかし、もう一つの側面、期間に目を向けてみましょう。信用取引をしている場合、どうしても「先払い」する金額である運転資金が多くなりがちです。運転資金に目を向け、回収期間と粗利率の両方の側面から、販売先との取引継続を見直しましょう。
【先払いしている金額に目を向ける】
資金繰りを考える際には、売上高が少ないから入金が少ない、コスト削減が進んでいないから出金が多い、と資金の量だけを考えがちです。しかし、量の側面だけで考えると、資金繰りの改善は行き詰まってしまいます。もう一つの側面、期間に目を向けてみましょう。
多くの商売は、商品を掛で仕入れ、在庫し、掛で販売するという信用取引に基づいて行われています。この流れを、以下に示します。
仕入 → 支払 → 在庫(仕掛り) → 販売 → 回収
多くの商売が回収よりも支払が先にくる「先払い、後回収」という形になっています。在庫も販売も、支払の後で回収より前の状態です。いくら売上を上げても、回収する前なら、その売上金額は先払いしている金額にすぎないのです。在庫も、資金の観点から見れば先払いしている金額にほかなりません。この先払いしている金額が多くなると、資金繰りに影響してくるのです。
あなたの企業は、どれくらいの額を「先払い」しているのでしょうか。その金額は、貸借対照表から把握することができます。まず、流動資産の部にある受取手形、売掛金、棚卸資産(原材料、仕掛品、製品)の金額を合計してください。この合計金額をAとします。なお、これらの中に実態のない金額が入っている場合は、その金額は必ず除いて計算してください。
次に、流動負債の部にある支払手形、買掛金、前受金の金額を合計してください。この合計金額をBとします。AからBを引いた金額、この金額が、御社が先払いをしている金額になります。一般的には「運転資金」と呼ばれています。この金額が多くなれば、資金繰りは厳しくなります。前回の決算書と比べて、この運転資金は増えていませんか。また、月次決算を行っている会社では、毎月この金額を算出して、利益とともに運転資金の動向も確認する必要があるでしょう。
【取引を止めることが資金繰りを改善することも】
運転資金の額は、一回当たりの取引額×期間で決まります。期間とは、回収なら回収期間、支払なら支払期間です。もしも、御社の回収期間が3ヶ月なら、売上原価の3倍の金額が、先払いされていることになります。
粗利をほとんどいただけない販売先でも、1円でも利益がとれるのなら、取引を継続するべきだと考えている経営者は多くいます。しかし、月商の3倍を先払いしているのですから、取引をやめれば資金繰りが楽になる可能性があるということは見落とされがちです。
資金繰りが厳しいと、売上高の確保ばかりに目が行きがちですが、次のような見直しも同時にしてみましょう。
- すべての販売先の粗利率を明らかにします。
- 一定の基準を作り、その基準以下の粗利率の販売先をピックアップします。
- すべての販売先の回収条件を明らかにします。
- 一定の基準を作り、その基準より回収条件が長い販売先をピックアップします。
- 2.と4.の両方の基準に該当する販売先の今後の取引について検討します。
- 該当販売先に、今後の取引継続の条件として、値上げか回収期間短縮のお願いをします(多くのケースで取引中止となる場合も考えられますので、ご注意ください)。
このような見直しを定期的に行うことも、資金繰り改善に効果があります。
- 回答者
- 中小企業診断士
大石 幸紀
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