経済産業省・中小企業庁は、マンガでわかる「価格交渉」価格交渉を行うためのテクニックやポイントについて、下記内容を発表しました。
急速な円安・ドル高が進むなかで、原油などのエネルギーコストや原材料価格は高騰しています。また最低賃金の引き上げや人手不足により、労務費も上昇傾向にあります。
このような中で、「下請事業者(中小企業・小規模事業者)」が事業を継続していくためには、発注者である「親事業者」に対して、経費の上昇分を取引価格に適切に転嫁するための「価格交渉」が欠かせません。
今回のマンガでわかるシリーズでは、売り手である「下請事業者」が、買い手である「親事業者」に、価格交渉を行うためのテクニックやポイントについてご紹介します。
「値上要求」のための価格交渉の進め方
ほとんどの商取引は、売り手よりも買い手の方が強くなります。下請事業者と親事業者が「価格交渉」を行った場合、下請事業者は不利な立場になりがちです。
では、下請事業者は親事業者に対して、どのように「値上要求」をしていけば良いのでしょうか。ここでは、その基本的な流れについてご説明します。
STEP 1「事前準備」
■価格根拠の資料を作成
価格交渉では、価格の根拠となる客観的なデータを提示する必要があります。
原材料費・エネルギーコスト・労務費について、これらの上昇を取引価格に反映しない取引は、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に該当する恐れがあります。値上要求にあたっては、たとえば以下のような価格根拠の資料を作成して、交渉に臨みましょう。
- 原材料の内訳と、客観性のあるそれぞれの原材料価格の推移(上昇)資料
- 電気料金・ガス料金、燃料調達費などの客観性のあるエネルギーコストの推移(上昇)資料
- 最低賃金の引上げ、人手不足による労務費の上昇資料説明
- 上記の外的なコスト増加に対応するために企業努力で対応可能な範囲及びこれまで実施してきた企業努力をアピールする資料
- 価格変更は安定供給や品質安定にどのような影響があるかをアピールする資料
■親事業者との関係性の確認
親事業者が、自社にとってどのくらい重要な取引先なのかによっても、値上交渉の条件は異なる場合があります。以下について確認しておきましょう。
- 親事業者が、全体の売上・利益に占める割合、依存度
- 親事業者が、下請法(後述)が適用されるかどうか
- 親事業者が、自社の経営状況(決算書)を把握しているかどうか
■競合に対する自社の強みの把握
競合(同業他社)と比較した場合の自社の強みを整理しましょう。価格だけでなく、品質・納期・機能など価格以外のメリットについてもまとめましょう。
- 競合と比べて、価格は安いのか、高いのか
- 競合と比べて、製品・サービスの品質はどうか
- 競合と比べて、納期対応力・生産能力はどうか
- 競合と比べて、製品の機能・技術力は優れているか
■提示価格・目標価格・最低価格等の設定
はじめに、取引先に提示する「提示価格」、自社として納得できる「目標価格」、これ以上は譲歩することができない「最低価格」の3種を設定します。
「提示価格=目標価格」でもかまいませんが、取引先によっては価格交渉のテクニックとして目標価格よりも上の提示価格を決めておく必要があります。
また価格以外に、自社で受け入れることができる取引条件についても整理しておきます。
STEP 2「価格交渉」
■価格交渉の要請
「価格改定検討のお願い」等のタイトルで文書を作成し、送付します。この文書には「価格値上」が必要な背景についても記載します。 取引先の担当者には、事前に価格改定の要望について打診をし、交渉のテーブルを設定するようにお願いします。
■価格・取引条件の交渉
事前に準備した客観的かつ合理的なデータを提示しながら、値上交渉をします。 テクニックとしては、最初に提示価格を提示し、相手の反応を見ながら「目標価格」での妥結をめざします。 また必要に応じて、価格以外の対案・取引条件を提示します。たとえば、以下のようなものが考えられます。
- 加工方法や原材料、設計の変更
- 包装方法や納品頻度の変更
- 検査方法の見直し、変更
- 支払い条件や保証期間の見直し
- サービス体制の変更
- 不稼働金型の管理費・廃棄ルールの設定
STEP 3「価格・取引条件の文書化」
■議事録などによる文書化
価格交渉の経緯については、その都度、決まっていることと決まってないことを文書化しておきましょう。議事録の作成・共有が難しい場合には、打ち合わせメモとして「間違いがあるとご迷惑をおかけするので確認させてください」と、取引先に電子メール等を送信しておくと間違いがありません。
■取引条件・ルールの文書化
取引条件・ルールについて、議事録・見積書・契約書などで文書化しておきましょう。取引条件に関するルールとしては、以下のような例があります。
- 製品単価の算出ルール更
- 追加費用の負担ルール
- 型の保管・廃棄ルール
- 補給品の支給条件・単価算出ルール
- 運送経費の算出ルール
- 図面・ノウハウの開示ルール
「値下要請」に対応するための価格交渉の進め方
親事業者からの「値下要請」に対しての交渉方法の基本的な考え方は、親事業者への「値上要求」の場合と同じです。ただし、いくつかのポイントがあります。
STEP 1「事前準備」
値下要請については、「決して即答しない」ことです。
親事業者(発注先)から、一方的な「値下要請」について即答を迫られたり、短期間で返答を求められたりするケースもありますが、即答はせず、時間をもらうようにします。
そして、「値上要求」の場合と同じように、製造にかかる原材料費、エネルギーコスト、労務費等の合理的な価格根拠となる資料を作成します。
親事業者が求める品質水準を達成するのにかかるコスト、原価計算の方法、自社の価格低減努力についての資料等を作成します。
「値上要求」の場合と同じように、親事業者との関係性の確認、競合に対する自社の強みについても把握しておきましょう。
そして、値下要請に対して、自社として納得できる「目標価格」、これ以上は譲歩することができない「最低価格」を設定します。価格を決定する際には、損益分岐点や限界利益についても算出しておきます。
STEP 2「価格交渉」
値下要請の価格交渉にあたっては、「価格低減のために、親事業者(発注者)と協同で何ができるか」を一緒に考えるという姿勢で臨みましょう。
その前提として、親事業者が求める品質水準を達成するために必要な工数、技術的な難易度、知的財産の対価などについて説明し、「目に見えるコスト(数値化できるコスト)」以外のコストについての理解を求めておきます。
「値上要求」の場合と同じように、必要に応じて価格以外の対案・取引条件を提示することも大切です。
STEP 3「価格・取引条件の文書化」
「値上要求」の場合と同じように、議事録などによる交渉経緯の明文化、取引条件・ルールの書面化を行い、トラブルを防ぎます。
価格交渉の前に「下請法」を確認しよう
親事業者と価格交渉を行うにあたって、必ず「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」について学び、内容を理解するようにしてください。
下請法は、親事業者が有利な立場を活かして、下請事業者に一方的な取引ルールを押し付けることなどを禁じる法律です。法律では、親事業者に対して「4つの義務(書面の交付義務、書類作成・保存義務、下請代金の支払期日を定める義務、遅延利息の支払義務)」と、具体的な「11の禁止行為」を定めています。
下請法は、中小企業庁や公正取引委員会のページ等で、詳しく紹介されています。
企業間の「適正な取引」のために
中小企業・小規模事業者をはじめ、企業間の適正な取引に役立つ情報をまとめました。ぜひ参考にしてください。
●中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック
このハンドブックは、取引先と価格交渉を行うために準備しておくとよいツールや、交渉を行う上で抑えておくとよいポイントなどを、中小企業等の協力を得て実態を把握し、わかりやすくまとめています。
●価格交渉ノウハウ・ハンドブック
中小企業・小規模事業者が、親事業者の調達部門への見積提出や価格交渉を行う上で必要なノウハウをまとめています。法令違反となる取引行為や、親事業者と上手に交渉するための具体的なテクニックも記載されています。
●下請適正取引等の推進のためのガイドライン
下請事業者と親事業者との間で、適正な下請取引が行われるよう、国が策定したガイドラインです。業種別に望ましい取引事例、問題となりうる取引事例が具体的に記載されています。
●下請かけこみ寺
下請かけこみ寺は、国が下請取引の適正化を目的として、各都道府県に設置した「無料の相談窓口」です。代金の未払い・減額、不当なやり直し・返品、受領拒否、買いたたき等の取引上のトラブル解決に向けて、専門の相談員・弁護士がアドバイスします。
中小企業はもちろん、個人事業主やフリーランスの方も、ご相談いただけます。
●パートナーシップ構築宣言
パートナーシップ構築宣言とは、企業規模の大小に関わらず、企業が「発注者」の立場で自社の取引方針を宣言する取組です。企業は代表者の名前で、「サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携(企業間連携、IT実装支援、専門人材マッチング、グリーン調達等)」「振興基準の遵守」に重点的に取り組むことを宣言します。
宣言企業は、パートナーシップ構築宣言の「ロゴマーク」が使用できる他、一部の補助金で加点措置を受けることができます。
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