苦境にあえぐ旅館・ホテルと向きあう「株式会社リョケン」の戦略と対策事例(経済産業省・中小企業庁)

経済産業省・中小企業庁は、苦境にあえぐ旅館・ホテルと向きあう「株式会社リョケン」の戦略と対策事例として、下記内容を発表しました。

宿泊業の挑戦。 ~アフターコロナを見すえた、高収益経営のために~

補助金虎の巻

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新型コロナウイルスの感染拡大は、宿泊業にも深刻な影響を与えています。東京商工リサーチの調査によると2020年の宿泊業の倒産は、前年の1.5倍、7年ぶりに100件台に達しました。

今回は、宿泊業のコンサルタントとして、第一線の現場で苦境にあえぐ旅館・ホテルと向きあっている、株式会社リョケン(静岡県熱海市)の佐野洋一社長にお話をうかがいました。

旅行イメージ

対策① 新型コロナに対応したビジネス

新型コロナ感染拡大のなかで、国内の旅館・ホテル業は規模の大小を問わず、業態に関わらず、苦境に直面しています。2021年2月現在、休業中の中小の旅館も多く、先行きが全く見えない状態です。

このようななかで、新型コロナ感染拡大による需要減に対応するために、旅館・ホテルは様々な取り組みをしてきました。
たとえば、あるホテルはテイクアウトとして、ホテルの玄関前で自慢のカレールーをレードル(お玉1杯)単位で販売していました。また、ある旅館は名物のキンメダイの煮つけをネット通販で販売しています。なかには、旅館に泊まる楽しさをそっくり販売する商品、料理・ポリタンクの温泉・浴衣のセット商品を開発した温泉旅館もあったと聞いています。また、テレワークのための客室利用プランの販売をしているホテルもあります。

ただし、このようなビジネスモデルが上手くいくかどうかは、ホテルや旅館にブランド力があるか、都市型立地かリゾート立地か、などの条件によって変わってきます。
その他には、地域の旅館・ホテルが共同して、新型コロナ収束後に利用できるプレミアム利用券を発行した事例もありました。

しかし中長期的に最も考えなければならないのは、「新型コロナだから、何をすればいいのか」ではなく「高収益を実現するには、どうすれば良いのか」ということです。

旅館・ホテルは、もともと財務面で不安を抱えている事業者が多い業界です。新型コロナは、それを加速させています。日本公庫等の緊急融資で息をつないでいる事業者も多く、新型コロナの収束後には、借入金の返済も考えていかなくてはなりません。生き残るためには、「高収益経営」を実現しなくてはならず、いまからその準備をする必要があります。

旅館女将イメージ

対策②「客室」で、付加価値を高める

新型コロナの感染拡大では、どの旅館・ホテルも打撃を受けていますが、長期的に見て好業績を挙げているのは「個人客路線」の旅館・ホテルが多いと思います。個人料金と団体料金には大きな差があり、収益性を高めるには個人客にシフトしていくのが、当然の流れです。

一昔前は、低単価でも「量」のメリットを活かした、客数第一主義のビジネスモデルが通用しました。しかしいま団体客マーケットは縮小しており、「量から質」への転換が求められています。

宿泊業の付加価値を高めるコンテンツとしては、「施設(客室)」と「料理」がありますが、はじめに施設について考えていきます。

近年、客室に露天風呂をつける旅館が増えています。とくに今は大浴場での密を避けるというニーズとあいまって、このような客室が人気を集めています。これは、個人客ニーズに対応した施設商品の充実という面もあります。

温泉イメージ客室に露天風呂をつける旅館が増加

新型コロナは、団体での利用を前提とした施設を、個人客利用に変えることを促すきっかけになりました。たとえば宴会場を個人客向けの施設にリニューアルするケースなどです。

ある旅館は宴会場を個人客向けの個室ダイニングに改装したところ、インターネットの「クチコミ評価」が上がり、個人客が増えました。

インターネットのクチコミ評価は個人客の集客につながります。一部の理不尽な評価に腹が立つこともあるとは思いますが、最近はサイトの対策も進み、またユーザーのクチコミ評価の信頼度を見抜くスキルも高まっています。真摯に「クチコミ評価」に向き合うことは、今や旅館・ホテルの経営活動にとって重要な位置を占めるものとなっています。

カクテルイメージ宴会場を個室のダイニングに改装

対策③「料理」で、付加価値を高める

客室などの施設の改装は、まとまった金額の設備投資が必要ですが、料理ならばアイデア次第で付加価値を高めることができます。その前に、まず料理を取り巻いている「先入観」「既成概念」を取り払わなくてはなりません。

たとえば、伊豆の旅館・ホテルの料理といえば、伊勢エビやカニ、アワビなどがつきものです。そのため、伊豆旅行を検討する人がネットで旅館を検索すると、同じような料理の写真が並ぶことになります。旅館・ホテル側が地域の利点(新鮮な海の幸など)を活かした料理で勝負したいという思いは理解できますが、結局のところ、ネットの料理写真を見比べて「これが入っている」「入っていない」など食材の観点だけで、旅館の優劣を判断する材料を提供しているだけかもしれません。

海の幸を活かせるのは和食だけではありません。もしかしたら、エスニック料理でも良いかもしれません。
また、ターゲットが家族層なのか、若年層、シニア層なのかによっても、アピールできるメニューは異なります。

一朝一夕にはいかないかもしれませんが、新型コロナで大変ないまだからこそ、自館の強みとなるように、「自館料理」のリ・モデルを進めていくべきだと思います。

料理イメージ

また、施設と料理、それぞれの収益を確保するために、室料と食事料金を区分する「泊食分離料金」の体系を整えることをおすすめします。旅館のなかには料金設定が、どんぶり勘定の事業者もいます。収益を確保するためには、泊食分離料金を前提に、客室と料理それぞれの付加価値を「見える化」することが大切です。

対策④「個人客」と直接つながる

近年、旅館・ホテルの集客面において、じゃらんや楽天トラベルなどの旅行サイト(OTA)の存在感が高まってきました。旅行サイトは基本的に比較サイトです。選ばれるためには、前述した個人の「クチコミ評価」が鍵を握ります。

 

このような旅行サイトは集客力がありますが、①仲介手数料(リベート)が必要、②価格競争となる場合がある、③リピート顧客につながりにくい、などが課題です。
このような課題を解決し、中小規模の旅館・ホテルが生き残るためには「個人客」と直接つながることが重要になります。

宿泊業は「装置産業」の側面があり、小規模よりも大規模の方が、一般的にスケールメリットにより収益性を高めやすいと言えます。しかし一方で、大規模なホテルや旅館の弱点には、幅広い層、ボリュームゾーンをターゲットにしないと経営が成り立ちにくいことがあります。

中小宿泊業の強みを活かすためには、ターゲットを絞り、「個」にあわせたサービスを徹底すること、たとえば、お客さまの趣味や嗜好、お気に入りなどについてメモを残し、次のおもてなしに活かしていく。そのためには、それなりの労力が要りますが、やり続けることでサービスの質は高まり、リピート顧客の獲得につながります。

 

また、自社サイトやSNS(Twitter・Instagram・Facebookなど)は、直販・リピーター獲得のための重要な武器になります。中小の旅館・ホテルのなかには、SNSを上手に活用することで、個人客の獲得につなげているケースもあります。SNSを効果的に活用するためには、自館の強みを踏まえて、たとえば、スポーツ、文学、ライブ、アニメといった趣味や興味で、ターゲットに迫ることがポイントになります。

新型コロナ感染拡大により、社会のデジタル化が一気に進みました。旅館・ホテルの生き残りのためには、ネット活用力がますます重要になってくるはずです。

宿泊予約イメージ

料理スマホ撮影イメージ

対策⑤「わざわざ旅館」をめざして

繁盛する旅館・ホテルの特徴として、私どもは「わざわざ旅館(ホテル)」という言葉を使っています。「熱海に旅行するのでたまたまその旅館を選んだ」のが「たまたま旅館」だとすると、「その旅館に泊まるためにわざわざ熱海に行く」のが「わざわざ旅館」です。つまり、宿泊自体が旅行の目的となる旅館・ホテルのことであり、それは全国各地に存在します。

全国のわざわざ旅館(ホテル)に共通してあるのは、経営者の思い入れの深さであり、そこから生まれる独自性、希少性、物語性です。だからこそ、泊まったお客さまはそれを人に語りたくなり、友人たちにSNSで伝えたくなります。つまり、わざわざ旅館がお客さまに提供するのは、単なる「宿泊」という機能ではなく「感動」「共感」なのです。

新型コロナは、宿泊業にとって、いまだかつて経験したことのないほどのピンチです。しかし、そこには確実に新しいニーズの芽生えがあります。
アフターコロナを見すえた高収益経営のために、自館ならではの価値を提供できる「わざわざ旅館」をめざしましょう。

リョケン 佐野社長

その他

・洋式トイレが重要です。和式トイレでは高齢者・外国人等の予約をいただくことが困難です。
・宿泊客がインターネットで予約する際に重要な判断材料となる部屋の禁煙・喫煙は明示しましょう。

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