経済産業省・中小企業庁は、マンガで分かる「事業承継」と題して、下記内容を発表しました。
「事業承継」とは、会社の経営権を後継者に引き継ぐことです。近年、中小企業・小規模事業者の経営者の高齢化がすすむなかで、事業承継は重要な経営課題になっています。
しかし、事業承継をすすめるにあたって、「どこから手をつけたらいいかわからない」とか「誰に相談したらいいかわからない」と悩んでいる経営者も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、事業承継の方法や具体的な進め方について、簡単に紹介します。
事業承継で引き継ぐ対象は、「人」「資産」「知的資産」
事業承継で引き継ぐものとしては、「人」「資産」「知的資産」の三つの要素があります。
「人」とは、経営にあたる後継者です。中小企業・小規模事業者のなかには、後継者が見つからないため、引き継ぐことができずに、廃業せざるをえないケースもあります。
「資産」とは、自社の株式、資産、資金などです。自社株式の取得にともなう相続税や贈与税の負担、事業承継後の資金繰りなども検討します。
「知的資産」とは、目に見えない(形がない)資産です。経営理念、人脈や顧客との信頼関係、チームワークや組織力、ブランドや人材力などそれにあたります。とくに中小企業の場合は目に見える資産よりも目に見えない知的資産が、利益の源泉であり成長の原動力であるケースが多いのです。そこで、この知的資産をどう引き継ぐかが、事業承継のポイントになります。
構成要素 | 例 |
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人(経営) | 経営権、後継者の育成・選定、後継者との対話、後継者教育 |
資産 | 株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金・借入金等)、許認可 |
知的資産 | 経営理念、経営者の信用、取引先との人脈、従業員の技術・ノウハウ、顧客情報 |
ステップ① 事業承継に向けた準備の必要性の認識」
事業承継のはじめの一歩。それは、経営者の意識改革です。
経営者はバイタリティあふれる人が多いので、何歳になってもまだまだ現役、いつまでも働けると思っている人がほとんどです。
しかし後継者の育成には、5年~10年の時間がかかるとも言われています。60歳を過ぎたら事業承継の準備をはじめましょう。
といっても、経営者に事業承継をすすめてくれる人は、ほとんどいません。従業員はもちろん、取引先も、身内でさえ、経営者に向かって「事業承継を考えたらどうですか」と口にするのには抵抗があります。
忙しい毎日のなかで、経営者自身が立ち止まって、事業承継について考えるしかありません。
できるだけ早めに、顧問税理士などの専門家、商工会議所や商工会、取引している銀行や信用金庫などの金融機関に、経営者の方から事業承継について相談してみることをおすすめします。また商工会議所や商工会などの支援機関の「事業承継セミナー」などに参加してみることも良い方法です。
まずは経営者の意識を変えて、その必要性を理解することから、事業承継はスタートします。
ステップ② 経営状況・課題を「見える化」
事業承継の必要性を理解したら、自社の経営状況や課題を「見える化」します。
事業を承継した後も、会社は持続的に成長していけるのか、利益が確保できるビジネスの仕組みはできているのか、自社の商品やサービスに十分な競争力があるのかを総点検します。
経営状況を把握するツールとしては、中小会計要領・ローカルベンチマーク・知的資産経営報告書等があります。これらを活用しながら、経営状況(事業・財務・資産)を「見える化」を行い、課題の解決の方向を明確にします。
事業承継にあたっては、中小企業にとって重要な経営資源であり、利益の源泉・成長の原動力である「知的資産」の見える化を忘れてはいけません。経営者の想いや経営理念などの目に見えない資産を後継者に伝えるために活用したいのが、「知的資産経営報告書」です。
知的資産報告書の作成にあたっては、経営者が過去から現在までを振り返りながら、経営理念や信条、こだわり、人材力、技術力、ブランド力、ネットワーク力などについて、まとめていきます。これは、事業承継にとどまらず、知的資産を活かした経営力の向上にも役立ちます。
事業の見える化のメリット | 事業の将来性の分析や会社の経営体質の確認を行い、会社の強み・弱みを再認識。これにより取り組むべき課題を洗い出す。 |
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資産の見える化のメリット | 経営者の個人資産について会社との貸借関係などを確認する。後継者に残せる経営資源を明確にできれば、後継者の不安も解消される。 |
財務の見える化のメリット | 適切な会計処理を通じて、客観的な財務状況を明らかにする。これにより銀行や取引先からの信用度も上がり、資金調達・取引の円滑化にもつながる。 |
ステップ③ 事業承継に向けて会社を「磨き上げ
経営を「見える化」して課題が明確になったら、次にやるべきことは会社の「磨き上げ」です。「磨き上げ」とは、組織・事業などの経営課題を解決し、企業の価値を高めることです。
後継者がなかなか見つからない理由の一つに、その企業に魅力がない=企業価値が低いことが挙げられます。
経営者が「10年後、こんな会社になっていたい」という将来像をかかげ、事業を磨き上げて商品やサービスの競争力を高めたり、組織を磨き上げて社内の風通しを良くしたりすることで企業価値を高め、後継者が自ら引き継ぎたいと思えるような魅力的な企業をつくり上げていきます。
項目 | 具体例 |
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事業の磨き上げ |
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組織の磨き上げ |
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ステップ④-1 事業承継計画の策定(親族内・従業員承継)
中小企業の事業承継で最も多いのは、子どもなどの親族に経営を引き継ぐケースです。親族内承継の場合は、後継者を早めに設定することができ、長期的な育成ができるという利点があります。また、会社の所有(自社株等)と経営を一体的に引き継ぎやすいため、スムースな事業承継が期待できます。
経営者に近い立場で経営に携わってきた従業員、いわゆる「番頭さん」のような従業員に経営を引き継ぐケース(従業員承継)もあります。経営の継続性の面ではメリットがありますが、従業員が株式取得の資金を調達できるかなどの課題もあり、早めに対策を立てる必要があります。
ともあれ後継者を選定したら、経営者と後継者が一緒になって、事業承継のためのロードマップ「事業承継計画」を策定しましょう。
事業承継計画では、経営の「見える化」、会社の「磨き上げ」をすすめるなかで明らかになった様々な課題を踏まえて、長期的な経営方針、方向性、目標などを設定し、事業承継のため具体的な行動計画を立てます。事業を続けてきた経営者の想いや経営理念も計画に盛り込みます。
策定した事業承継計画は、金融機関や従業員などの関係者、ステークホルダーとも共有します。スムースな事業承継のためには、関係者の理解や協力が欠かせません。事業承継計画に基づいて、あらかじめ方針をすりあわせておくことで、様々なトラブルを回避することができます。
ステップ④-2 社外への引継ぎ(M&A等)
後継者が親族内、社内の役員・従業員に見つからない場合は、第三者による引継ぎ(M&A等)を検討します。M&Aにあたっては、会社の「磨き上げ」により企業価値を高めることが重要です。企業価値を高めることで、より良い譲渡先が見つかる可能性や譲渡価格が上がる可能性があります。
M&Aには、専門的なノウハウが求められます。金融機関、専門家、民間の専門業者などのサポートを受けながらすすめることが一般的です。
また、M&Aをすすめるにあたっては、どのような手法、どのような内容で事業を譲渡したいのか、経営者自身が考えを明確にし、そのうえて譲渡先を探すことが大切です。
事業承継の専門家に相談してみよう。
事業承継には、相続・贈与などの問題が大きく関係してきます。事業承継にあたっては、顧問税理士・公認会計士・弁護士等の専門家、商工会議所・商工会、金融機関などからアドバイスを受けながら、進めていきましょう。
事業承継についての公的な支援機関としては、事業承継に関する専門的な相談に対応する「事業引継ぎ支援センター」、事業承継も含めた経営全般の相談に応じる「よろず支援拠点」があります。これらの支援機関のアドバイスも参考にしながら、早めに計画的に、事業承継をすすめていきましょう。
- ● 事業承継の相談窓口「事業引継ぎ支援センター」
- 各都道府県に設置されている事業承継の相談窓口です。事業承継の専門家が親族内承継・従業員承継・M&A等の相談に対応。事業承継計画の策定支援、M&Aのマッチング支援を行っています。
- ● 経営全般の相談窓口「よろず支援拠点」
- 国が設置した無料の経営相談所です。事業承継だけでなく、商品開発・販路拡大など経営全般の相談に対応しています。経営の「見える化」、会社の「磨き上げ」のような事業承継に向けた準備段階でのアドバイスも受けることができます。
事業承継についての支援制度
事業承継を支援するための主な法律に、「経営承継円滑化法」があります。一定の条件を満たすことで、①遺留分に関する民法特例(自社株式の散逸防止)、②金融支援(事業承継に伴う資金需要への対応)、③課税の特例(相続、贈与に伴う負担の軽減)を受けることができます。
その他にも、事業承継・経営資源の引継ぎを契機として、新事業進出、販路開拓、経営改善などに取り組もうとする中小企業を支援するための補助金や制度融資も用意されています。ミラサポplusの「制度ナビ」でチェックしてみてください。
事業承継について、もっと知りたい方は
中小企業庁では、事業承継計画の立て方や後継者の育成方法、その他事業承継に伴う課題と対策について分かりやすく解説した「事業承継マニュアル」、経営の見える化・会社の磨き上げなど事業承継に向けたアクションをまとめた「会社を未来につなげる-10年先の会社を考えよう-」を作成しています。
事業承継にあたって、ぜひ参考にしてください。
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