経済産業省・中小企業庁は、支援機関とともに「民間支援機関編②」 ~「介護記録システム」を補助金で開発、ITベンダーとして補助金を提案~について、下記内容を発表しました。
「認定支援機関(経営革新等支援機関)」とは、国が経営の専門知識のある個人や団体を認定する制度であり、税理士・社会保険労務士・中小企業診断士などの専門家が認定支援機関として登録されています。
今回の「支援機関とともに」では、大手企業の請負業務が中心のソフトウェア会社が、支援機関のコーディネーターのアドバイスを受けながら、補助金を活用して、自社製品を開発。さらに販売にあたり、IT導入補助金のベンダーとして顧客に補助金の活用を提案している事例をご紹介します。
認定支援機関 | 株式会社ひたちなかテクノセンター(茨城県ひたちなか市新光 38) |
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支援企業 | アイムス株式会社 |
企業概要 | ソフトウェアの開発設計、電子回路の設計、CADによる機械設計等 |
所在地 | 茨城県ひたちなか市田彦1637-5 リバティビル201 |
WEBサイト | https://aimusu.co.jp/ |
人材育成や認証取得に、補助金を活用
アイムス株式会社は、茨城県ひたちなか市で、ソフトウェアの開発設計、電子回路の設計、2次元・3次元CADによる機械設計等を行っている。
会社の設立は、2002年5月。大手電機メーカーのエンジニアだった石井浩一社長が、38歳の時に独立起業した。
「会社の設立当初から、以前の勤務先である大手電機メーカーやそのグループ会社の開発・設計業務を受注することができ、順調なスタートを切ることができました。しかし、会社が大きくなるにつれて、経営課題も増えてきました(石井社長)」
創業してしばらくは、自分がただがむしゃらに働けば良かった。だが、社員が5人、10人と増えていくと、技術者ではなく経営者としてのマネージメント能力が求められるようになり、組織体制、資金繰り、労務管理などに悩むことも増えていく。そんな時、株式会社ひたちなかテクノセンターの水谷啓一コーディネーターから一本の電話がかかってきた。
「私は、ひたちなか市の産業活性化コーディネーターとして、市内企業の支援を担当しています。その時は、前の担当からの引継ぎを兼ねて地域の企業を訪問し、経営の困りごとをうかがっているところでした。アイムスさんにとって『押しかけ支援』のように見えたかもしれません(水谷コーディネーター)」
そう言って、水谷コーディネーターは笑う。
水谷コーディネーターが所属する株式会社ひたちなかテクノセンターは、①ベンチャー企業・起業家等のためのオフィスの提供、②大手企業や行政等と連携した経営支援、③セミナー・研修を通じた人材育成などを行う、茨城県、ひたちなか市などの基礎自治体、地域の企業などが出資した民間支援機関である。センター内には、各市町から委嘱された11名の産業活性化コーディネーターがいる。水谷コーディネーターは、その一人として、大手電機メーカーのエンジニアだった経験を活かし、経営、研究開発、人材育成など、中小企業の幅広いアドバイスを行っている。
水谷コーディネーターが訪問すると、3次元CADを操作できる人材育成が直近の課題であることが分かり、市の補助金が活用できる講習会に参加したらどうかと提案した。
「私たちのような中小企業にとって、人材教育のコストはかなりの負担です。補助金を活用することで費用負担を抑えることができました(石井社長)」
その後、取引先から情報セキュリティ認証の取得要請があった際にも、水谷コーディネーターから、補助金の活用や専門家派遣制度の利用などのアドバイスを受け、プライバシーマークおよびISO/IEC27001の認証を取得した。「定期的に訪問してもらい、補助金・助成金の最新情報や申請方法をアドバイスしてもらえるので、とても助かっている」と石井社長は言う。
3次元CAD操作
ISO/IEC27001認証
補助金を活用し、自社製品「介護記録システム」を開発
同社の業務は、ソフトウェア開発・電子回路設計・機械設計等だが、大手企業からの「請負」の形態をとることが多い。技術力の高さが評価されて安定成長を続けてきたが、若手エンジニア達の間には、「いつかは自社製品を開発したい」という声があった。
「請負の場合、社員は取引先企業の事務所で仕事を行うことがほとんどで、会社の一体感が薄れてしまいがちです。社内のモチベーションを高めるためにも、『アイムス』の名前で自社製品を開発したいと考えるようになりました(石井社長)」
その頃、石井社長は介護事業を経営する知人から、「介護日報の管理が大変だ」と言う悩みを聞いていた。介護日報は介護内容を記録するもので、介護保険の費用請求には欠かせない。しかし日報の記載には時間がかかるため、介護スタッフの負担になっていた。スマートフォン、タブレットから簡単に記入できるシステムが開発できれば、負担の軽減につながると考えた。また介護事業者は茨城県内だけでも約300事業所あり、ニッチではあるが十分な市場性があることも魅力だった。
「似たようなシステムは他社にもありますが、機能が多すぎて使いこなすのは大変です。小規模な介護事業者をターゲットに、機能を絞ったシンプルなシステムを安価で提供できれば、他社と差別化できると考えました(石井社長)」
入力の手間を省くため、プルダウンメニューの選択を増やし、短時間で日報が作成できるように工夫。介護スタッフの働き方改革につながるシステムをコンセプトに、製品開発をすすめた。
また製品開発にあたっては、ひたちなか市の「新製品等開発事業費補助金」を活用した。
「資金力に乏しい中小企業・小規模企業にとって、新製品の開発は大きなリスクがともないます。市町・県・国の補助金を活用することで、そのリスクを軽減することができます(水谷コーディネーター)」
水谷コーディネーターのアドバイスを受けながら、2021年3月、自社製品である介護記録システム「楽々」が完成した。
介護記録システム「楽々」
ITベンダーとして、顧客の補助金活用を支援
いままで培った技術力をベースに自社製品の「開発」には成功した。しかし、同社には製品の「販売」については経験もノウハウもなかった。
「請負業務が中心だったので、販路というのをあまり考えたことがありません。くわえて、新型コロナウイルスの感染拡大により、対面営業も難しい状況になりました(石井社長)」
水谷コーディネーターに販路開拓について相談をすると、IT導入補助金を支援するITベンダーに登録してみたらどうかとアドバイスされた。
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者がITツールを導入する費用を補助するための制度であるが、補助金の申請にあたって、ITベンダーがITツールの提案、補助金支援のサポートをする仕組みだ。同社は介護記録システム「楽々」を補助金対象に登録し、登録ITベンダーとなった。
「いままでは補助金を『利用』する側でしたが、ITベンダーは顧客に補助金申請を『提案・支援』する立場です。ITベンダーになって、水谷さんの大変さが少し分かりました(石井社長)」
最初にIT導入補助金を申請した際には、6回も申請書を書き直したと言う。その時も、水谷コーディネーターの支援により、補助金の採択までこぎつけた。
介護記録システム「楽々」がきっかけになり、自社製品の開発について社内で話す機会も増えた。若手エンジニアからは「次はEV、電気自動車に関わるシステムをつくりたい」という声も出ている。社員同士が知恵を出し合い、一つの製品を完成品までつくりあげ、販売していくことで、会社の一体感も、社員のモチベーションも高まった。
「社員にとって魅力ある会社、入社して良かった思われる会社にするために、少しずつ自社製品のラインナップを増やしていけたらと考えています(石井社長)」
いまは大手電機メーカーからの請負業務が中心だが、いつまでも『おんぶにだっこ』では大きく成長することはできない。自社製品の開発を通じて、技術力・開発力を高めることで、取引先の期待にも応えることができるのではないかと石井社長は語る。
「自社製品の開発に必要なのは、技術力だけではありません。資金調達、販路開拓などクリアすべき経営課題がたくさんあります。その時々に応じて、的確なアドバイスをしていきたいと思います(水谷コーディネーター)」
ひたちなかテクノセンターとして、同社への幅広い支援を通じて、地域の核となる企業に成長してもらうことで、地域の活性化につなげていきたいと、水谷コーディネーターは言う。
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