人材育成に効果的なフレームワークを教えてください。(経済産業省・中小企業庁)

経済産業省・中小企業庁は、人材育成に効果的なフレームワークを教えてくださいと題して、下記内容を発表しました。

社内の人材育成に取り組んでいます。効果的な「フレームワーク」について教えてください。

回答

昨今、即戦力の人材調達は、容易ではないと思います。社内の人材を効果的に育成するために、経験と勘だけに頼らず、人材育成の「フレームワーク」の中から、自社にあったものを参考としていただければと思います。取組みやすく効果的な3つの「フレームワーク」をご紹介したいと思います。
1.HPI (Human Performance Improvement)
2.SMARTの法則
3.「70:20:10」の法則

1.HPI (Human Performance Improvement)

HPI (Human Performance Improvement)という人材育成のフレームワークでは、組織のあるべき姿を洗い出して、現状とのギャップを明確にして、改善することに重点を置いています。人事的な視野だけで終了せず経営理念や経営計画と連結しているところが特徴的です。下記の図をご覧ください、このフレームワークの流れを記載しておりますので、参考にしてください。

HPI (Human Performance Improvement)モデル

ある製造業の事例をご紹介します。この企業では売上の増加に伴い、本社工場とは別に、3年後に第二工場を別の拠点に立上げる計画があり、ハード面の設備投資については、設備メーカーの見積から計画を立てることができたのですが、ソフト面の人材の調達と育成の計画については、何から手を付ければいいかお困りで、管理部長様から相談があり、HPIのフレームワークを活用し、下記の手順で計画を立てる提案をいたしました。

まず、(1)ビジョンの確認と3年後に建設予定の第二工場に期待する、あるべき姿を明確にしていただきました。次に、(2)現状の組織・人材の把握をすること、具体的には、一般社員については、スキルマップの作成と実態の調査、主任以上の管理職については、役割定義書の作成と到達すべきレベルの作成をおこなっていただきました。さらに、(3)第二工場で必要な人材と現状の人材とのギャップを確認していただきました。その結果第二工場に転勤していただく人材、特に設備担当、品質管理担当、管理職クラスの人材が不足していることがわかり、これらの人材の採用と育成計画、研修計画が必要なことがわかりました。

この企業では、意思決定に関するプロセスが明文化されておらず、生産計画、購買計画、人材採用計画等の業務プロセス等、また情報システムも未整備だということも明らかになり、人事面、組織面だけでなく、企業を支えるインフラ面の整備も必要なことがわかりました。

第二工場設立に向け、これらの整備をするためにプロジェクト化すべきという気付きが生まれ。実際にプロジェクト化することで、予算化や役割も明確になり、進捗確認の中で、経営陣と現場のコミュニケーションが定常的に取られ、スムーズに第2工場を立ち上げることができました。

まとめとしまして、このHPIを活用いただく際のポイントは、以下のようになります。

  1. 経営のゴールを明確にする
  2. 現状の組織・人材のレベル感を把握する
  3. ゴールと現状とのギャップを明確にする
  4. ギャップをどう埋めるかの対応を検討
  5. プロジェクト化して実施する
  6. 進捗確認と完了後の教訓を共有する

参考文献:「HPIの基本」 ジョー・ウイルモア(著)

2.SMARTの法則

「SMARTの法則」は、具体的な目標の設定に効果的なフレームワークであり、目標の設定時に、このフレームワークを使う事により、目標達成までのプロセスの精度をより高めることができます。「SMARTの法則」は自己の目標の設定を具体化することで、達成のイメージを作り上げることができ、より大きな成果を出せるようになります。SMARTの法則は以下の5つの頭文字を取っています。Specific(具体性)、Measurable(計量可能)、Achievable(達成可能)、 Relevant(関連性)、Time-bound(期限)があります。

下記の図にSMARTの法則のそれぞれの意味を解説していますので、ご参考としてください。

SMARTの法則

「SMARTの法則」の具体的な使用の事例として、人事評価の目標管理制度への活用についてご紹介します。
流れとしましては、期首に、部下自身がまず企業や組織の目標に沿った自身の目標を設定し、その後、上司と部下がお互いすり合わせる目標面談において、「SMARTの法則」で、目標をチェックします。

例えば、もし、具体性の観点から見てあいまいな場合は、上司が部下に質問する中で、リソースの確認や、実現の方法などについて、質問を通して、具体化させることができます。また、企業や組織のビジョンに関連が薄い場合は、組織の目標や意義などを部下にわかりやすく説明することで、組織のビジョンに興味を持ってもらい、部下が貢献できそうな分野のアドバイスをすることでより組織全体が強くなります。

中間や期末に評価面談する場合に、目標を達成したかどうかは、「SMARTの法則」を使い目標設定していることで、上司の思い込みを抑えられ、客観性が増すことで、公正・公平な評価ができるようになります。これにより、部下の成長だけでなく、上司も部下を指導するためには、自分も良い手本として、意識するようになり、組織全体として、成長できるようになります。

まとめとしまして、「SMARTの法則」を活用いただくポイントは以下のようになります。

  1. 目標を具体化することでより達成時のイメージをクリアにする
  2. プロセスの詳細やKPIを活用して、測定可能な目標設定とする
  3. 高すぎず、または低すぎない現実的で達成可能な目標とする
  4. 企業や組織全体のミッション・ビジョン・目標と方向性があっているかを確認する
  5. 期限を設け、目標に至るタイムスケジュールを作成し、管理する

3.「70:20:10」の法則

「70:20:10」の法則は、ロミンガーの法則とも呼ばれ、「人が成長する7割は業務経験、2割が薫陶、1割は研修である」という個人の能力開発についての影響度合いを示すフレームワークです。

「70:20:10」の法則とは

(1)業務経験

小さな失敗や成功体験の積み重ねから、人は成長していきます。仕事をこなす等のアウトプットを繰り返すことで、記憶に定着し、能力は開発されます。

(2)上司からの指導(薫陶)

上司は部下に対して、適宜アドバイスをする。難しい課題に対して、背中を押してくれる等、要所での助言をすることで、部下はためらわずに思い切ったチャレンジをすることが可能になります。

(3)研修や読書

研修は、スキルアップでとして通常とは別の視点でのモノの見方が増え、視野が広まるなど、大きな刺激になります。経験を整理し、定着させる働きがあります。

「70:20:10」の法則の事例として、私が以前、海外の現地法人のテコ入れとしてIT部門の責任者として赴任した時の話ですが、その部門は消極的で、他の部門からの依頼は滞っており、トラブルも多い状態でした。

まずは部下とOne on One ミーティングを行い、部下の能力の1~2割上のレベルの仕事を要求しました、最初は「無理です」と消極的でしたが、小さいチャレンジから成功体験を積むことで、部下は「業務経験」を通じて、徐々に仕事の質・量とも向上してきました。

少しストレッチした目標を設定することにためらっている部下には、「私が全責任を取りますので、思い切ってチャレンジしてください」と言葉をかけるようにすることで、プロジェクトを成功に導く部下が続々と現れ、社内の信頼を回復した「薫陶」のケースがありました。

また、経営側と交渉し、研修の予算の増額を認めてもらい、ITの書籍の購入を奨励し、また日本等での研修をさせることで、モティベーションは向上し、新しい知識の獲得や実践に熱心になり、最終的には、グループの中でも先進的な取組みをしていると他国から問い合わせが来るまでになりました。

まとめとしまして、「70:20:10」の法則のポイントは以下のようになります。

  1. 個人の能力の少しストレッチした目標設定による業務の実施
  2. 失敗から学び、成功から自信をえることで業務経験を積む
  3. 上司は部下を見守り、適切なタイミングで背中を押してあげる
  4. 上司は、自己の失敗の教訓・経験等を部下に共有し伝える
  5. 研修や読書から幅広い知識により視野を広げること
回答者
中小企業診断士 矢野 仁士

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